偽れる盛装

サッカー関係のエントリー作成が忙しくて、映画、小説の方はすっかりお留守です。
本も読んでいるので感想を書きおきたいと思いつつ、ユーロなどもあり、
また本の感想は、サッカーより書くのに時間がかかるので、おっくうになってしまいました。

昨夜、久しぶりに吉村公三郎「偽れる盛装」をCSで見ました。
10年くらい前に見たでしょうか。
そのときの記憶では、ラストシーンは京マチ子扮する芸妓君蝶が踏み切りで切りつけられるところだと思っていたのに、昨日見たらその続きがありました。君蝶の妹が恋人と東京へ去る、くだんの踏切を渡り、鴨川を渡って行くところで終りでした。京=花柳界を去る、ということが象徴的に映し出されたシーンでした。それをすっかり失念していたとは、いい加減なものですが、たぶん、京マチ子が、人形浄瑠璃さながらに、まさに美しく着飾った振袖姿で逃げ惑い、とうとう踏み切りに遮られて、男に刺されてしまう、というシーンが残酷にも美しかったので、印象が強かったのでしょう。
妹役は藤田泰子という女優で、京マチ子に比べると印象が薄く、かたぎの娘の役としては良いのかもしれませんが、記憶には残りにくかったのです。

同じようなテーマで溝口健二の「祇園の姉妹」があります。これもずいぶん前に見たので、記憶があいまいです。「偽れる盛装」より、10年以上古い戦前の作品で、一部は失われているようです。わたしの見た印象では、この溝口の方が良いと感じました。山田五十鈴が打算的な妹を演じ、やはり男に恨まれて、刺されてしまいます。姉は昔かたぎの芸者で、妹を案じていましたが、妹の災難を防ぐことはできませんでした。
どちらにしても、出てくる男がみんなどうしようもなくて、それが日本映画の一つの伝統ではあります。
「偽れる盛装」に戻ると、君蝶を刺す男「山下はん」、理不尽なまでにしょうがない男です。君蝶にお金を使い果たし、どうにもならなくなって彼女に金策を頼んで、断られると逆恨みをして、刃傷に及びます。殿山泰治が演じているのですが、その上手いこと。これでもかと、ダメ男を演じています。
妹の恋人は小林桂樹です。あまりしどころのない役ですが、彼も若い時はこんな2枚目の役を演じていたのですね。

先週の土曜日になりますが、BSで黒澤明の「静かなる決闘」を見ました。実にまじめな映画でした。わたしは黒澤が苦手なのですが、この良心、まじめさ、主人公がその気持ちをくどいまでに吐露するわかりやすさ、アメリカ映画にも通じるものがあり、海外で人気があることもわかります。
若い人にはぜひ、黒澤映画のようなまじめな作品を見てもらいたいと思います。現代は悩むことが悪いことかのように考えられがちですが、この映画のようにまっすぐに悩むことも、ほんとうは大切なことなのではないかと思います。「わが青春に悔いなし」などは、若い人は必見です。