こんな時にはTVで映画でも見ましょう〜「ローサは密告された」

映画館も密室、換気悪そう、の新型コロナウィルスが好きそうな環境のため、避けるべき場所になってしまいました。

が、わたしはトシヨリですから、映画は映画館で見なくては「見た」とは言えない、と思うクチ。

当然、大きなスクリーンで大きな音量効果で放映されるものとして作られているのですから、TVやPCの小さい画面では本当に見たことにはなりません。

それでも最近のTVならばどんなものかはわかるくらいの画質なので、こんな時ですし、うちのTVで映画でも見ましょう、と。

 

いつも前置きがクドイなあ。

 

で、「ローサは密告された」。

友人が映画館で見て良かった、と言っていたのですが、わたしは見逃し、TVで放送されたのを録画してありました。

 

ブリランテ・メンドーサ監督の2016年フィリピン公開の作品。

同年のカンヌ映画祭に出品され主演女優賞をジャクリン・ホセが受賞しています。

 

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主演のジャクリン・ホセ

 

この写真の後ろに写っているサリサリ・ストア「ローサ」の店主です。

サリサリって、いわばコンビニみたいなもので、香港で言うと「士多(シートゥ)」。

日本のコンビニと違うのは、なんでもバラで売ること。

この映画の冒頭にもそのシーンがありますが、ガムでも袋を開けて、一枚ずつにする、キャンデーも袋から出して、一個ずつにして一個いくらで売る。

ひじょーに細い商売をしているけど、合理的とも言える。わたしなんてガムを買っても全部食べきれないうちに古くなって湿気ってしまうもの。

フィリピンに行ったことがある人なら、このサリサリストアは見ているでしょうし、行った場所によっては、飲料水をポリ袋に入れて売っているのも見たことがあるでしょう。

わたしはフィリピンへは2回行ってるけど、もうン10年も前だから、今は違っているかもしれないけど、映画の街の感じなどはそんなに変わっていない印象です。

2度行って2度ともお腹を壊したので、わたしはフィリピンがちょっと苦手…

しかし、香港にいたときには、フィリピン人の知り合いが何人かいました。少し年配の人からは、子どもの頃、自分の村を挟んで、アメリカ軍と日本軍が撃ち合いをして、銃弾が頭の上を何度も飛び交った、という話を聞いて、身の置き所のない思いをしたことも。

そんなこんなで、フィリピン人、と言ってもむろんいろんな個性があるので、一般化してしまうのはよくないと思うけれども、おおむね家族愛の強い、家族親戚仲間意識の強い傾向があるようには思っていました。

 

あら、ちっとも映画にいかないわ。

 

はい、ここから映画の感想。

ドゥテルテ大統領が麻薬の取り締まりを大々的に行う、その前のこと。

サリサリ店主のローサは、頼りない感じのあまり仕事しないようなダンナ(これもそうとは限らないだろけど、フィリピンの男はあまり働かない人が多いように見える)、男二人女二人の4人の子ども、といっても上はもう大人、を養うもとはきれいだったんじゃないかな、と見える逞しいオバチャン。

彼らのいる街は、映画紹介記事によればマニラのスラム街ということで、マニラ在住日本企業の奥様たちは、一歩たりとも足を踏み入れたことはないであろう場所です。

しかし、電気も来ているようだし、一応2階建の家だし、スラム街というのは大雑把な気がする…

あまりお品のよろしい土地柄ではないことは確かで、ローサもまた、サリサリで「アイス」=麻薬を売っています。

夫の方は商売品を時々使用しているようで…

サリサリらしく、小口の商売のようですが、フィリピンでも違法は違法。

ある日、密告されて、夫婦共に連行されてしまう。

連行された先は警察の麻薬取り締まり班ですが、ローサたち売人などよほど善人に見えてしまうくらい、麻取のヤツラがあこぎなのです。

警察の連行記録に載せない、載せてはローサたちではなく、麻取の方に不都合があるから。

そして、取調室で、さんざ脅して、さらに上を密告させる。

さらに釈放するには金をよこせということになり、子どもたちは、お金の工面に走り回る羽目に。

子どもたちがローサとイザコザがあったらしい親戚や、いろんな知り合いに借金をしたり、なんとイケメン次男は売春したり、必死に金策して、ようやく集めたお金が、その刑事たちの要求額より少し足りない。

すると、ローサだけ解放され、夫は人質にとられ、金策させられる…

 

こいつらの方が、よっぽど悪いやんけ、と言いたくなる。

 

金策に出されたローサが、屋台の肉団子みたいのを頬張り、家族で屋台をやっている一家の店じまいの様を眺めながら、涙を流すシーンで終わる。

涙を流しながら肉団子の串を頬張るローサ。

なんだか今村昌平を少し思い出し、正面に近い角度で女主人公の顔で終わるところは溝口健二を思い出したりもする(「赤線最後の日」とか)。

画面は荒くいわゆるドキュメンタリータッチというのか、スクリーンで見たら目が回りそうな。

フィリピン社会の病根を描いているのだけど、フィリピンに昔からある家族の絆の深さ、人間関係のおおらかさ、ある意味ルーズさなどもよく描けていると思います。

そもそもこんなひどい要求、日本の麻取の刑事さんはしないはずだけど、それにしても、お金を貸してくれる人が、日本人の人間関係であんなにいるだろうか?

麻薬でしょっぴかれた両親のために、あんなに子どもたちが走ってくれるだろうか?

いや、麻薬なんか売るのがいけないんですよ。

でも、この作品をフィリピン社会の闇、とかで片付けてしまうのはどうかと。

 

借金まみれになって、結局あのサリサリも手放して一家で露頭に迷うのか、と暗澹たる思いがしますが、いいえ、そんなにローサは、ローサの子どもたちはヤワではないと思う。

 

 

ドゥテルテが大統領になって、麻薬撲滅のため、さらに密告をすすめ、強権を奮ってかなり乱暴な取り締まりを始めました。

2年前だったか「世界報道写真展」で、フイリピンで麻薬密売の密告して報復のため射殺されうつ伏せになっている人の写真を見ました。

ドゥテルテという人も指導者の世界的な傾向のタイプか、と、なんだか共感できないのですが、それはともかく麻薬が市井のオバチャンの商売道具になっていいはずもないので、どうにかしなくてはいけないのも事実でしょう。

 

ローサは今頃どうしているだろうか、4人の子どもたちの半分かそれ以上はもしかすると、まっとうな道を行ってないかもしれないな、などと思い巡らせています。