こんな時は家で映画でも〜「マイ・ブックショップ」
ほとんど毎晩映画を見ていて、レビューが追いつかない…
そうこうするうちに、忘れてしまう〜
これはわりと新しい作品ですが、わたしは初見。
2017年、スペイン、ドイツ、イギリスの制作。
マイ・ブックショップ
イザベル・コイシェ監督。
他にもちょっと話題になった映画もあり聞いたことはあったけど、わたしはこの作品で初めて知りました。
カタルーニャ人だそうですが、映画はイギリスらしさ…と言っても行ったことないけどイメージとして…とてもイギリスらしいように感じました。
映画.comの解説では、
イギリスの文学賞ブッカー賞を受賞したペネロピ・フィッツジェラルドの小説を「死ぬまでにしたい10のこと」「しあわせへのまわり道」のイザベル・コイシェ監督が映画化。1959年イギリスのある海岸地方の町。書店が1軒もないこの町でフローレンスは戦争で亡くなった夫との夢だった書店を開業しようとする。しかし、保守的なこの町では女性の開業はまだ一般的ではなく、フローレンスの行動は住民たちに冷ややかに迎えられる。40年以上も自宅に引きこもり、ただ本を読むだけの毎日を過ごしていた老紳士と出会ったフローレンスは、老紳士に支えられ、書店を軌道に乗せる。そんな中、彼女をよく思わない地元の有力者夫人が書店をつぶそうと画策していた。フローレンス役を「メリー・ポピンズ リターンズ」のエミリー・モーティマーが演じるほか、「しあわせへのまわり道」のパトリシア・クラークソン、「ラブ・アクチュアリー」のビル・ナイらが顔をそろえる。
端正な作品です。
フローレンスは戦死した夫とともに持ちたいと思っていた本屋を、海沿いの町の古い家で開店する。
「アートセンター」だか何かにするため(名誉欲のカタマリ)、その古い家を欲しがっていた地元の有力者ガマート夫人が有形無形に邪魔して、弟を使って法律まで作らせて、取り上げてしまう。
ほとんど孤立無縁に見えたフローレンスの唯一の理解者が、崖の上の屋敷に一人ですむ偏屈な老紳士。
彼とお互い好きな読書を通して、心を通わせます。
長年屋敷から出なかった老紳士は、ガマート夫人の卑怯な計略に腹を立てて、敢然とガマート家に乗り込み、彼女を厳しく非難する。
ここがこの映画で唯一と言っていい激しい場面で、何とその直後、老紳士は怒りのあまりか、心臓発作を起こして、亡くなってしまいます。
ただ一人の理解者を亡くしたフローレンスは、ガマート家の手先に過ぎない行政にも逆えず、その古い家をタダで没収されて、海辺の街を小舟で去って行きます。
と書くと、敗北感だけで終わってしまうようですが、最後にちょっとしたどんでん返しがあります。
脇役も丁寧に描かれていて、まず老紳士ブランディッシュのビル・ナイが、ユーモアもあり、意志も強く、魅力的なキャラクターで、二人を繋ぐ本が、まずはレイ・ブラッドベリで、次はナボコフの「ロリータ」というのも、原作通りなのか知らないけど、面白い。
ブラッドベリの「たんぽぽのお酒」が、作品の中で悲しみを誘うアイテムになっています。
フローレンスの本屋を手伝うクリスティーンという少女もまたたいそう魅力的で、わたし本は読まないわ、と宣言するのだけど、本屋の店員としては申し分のない働きで、賢く、聡く、活発で、素晴らしい巻き毛を持っています。
彼女が、鋭い目で、全てを見ていて、最後にやなヤツの権化みたいなガマート夫人に、いわばこっぴどく仕返しをします。
本は読まないわ、と宣言していたクリスティーンでしたが、フローレンスの勧めた本をちゃんと持ち出していて、そして映画の語り手は彼女であり、本を愛するフローレンスのスピリットは、クリスティーンに受け継がれていた、という結局はハッピーエンドでした。
それも、フローレンスという人の意思の強さや、地元有力者の前でもめげない勇気が、クリスティーンやブランディッシュを惹きつけたのでしょう。
他の脇役、BBCに務めるチャラ男(こいつが一番嫌い)とか、クリスティーンの母親とかもよく描けていると思います。
映像も悪くなく、灰色っぽい空に、海岸の景色、とても古くて立派なブランディッシュの屋敷、田舎の町の雰囲気などもよく伝わってきました。
ちなみに、1959年ごろの普通の女性のファッションとしてもなかなか素敵で、名流夫人を気取るガマート夫人は「ダウントン・アビー」みたいな格好ですが、フローレンスの服装は今着ても良いのじゃないかと思うような、カーディガンとブラウスとスカートで何気なくいい感じでした。