家で映画でも〜「わたしは、ダニエル・ブレイク」

10万円の特別給付金を巡って、何やらあちこちで混乱が起きているとか。

マイナンバーカードを作ろうとする人、持っているけど暗証番号を忘れた人、なんだかんだで郵送の手続きにしておくれ、と役所が言ったら、その書類の「給付金を希望しません」にチェックを入れてしまい、後で取り消す人が続出とか、話題にこと欠きません。

うちは縄文人弥生人でも江戸人でもいいけど)のため、夫婦で運転免許を持っていないのと、なぜかパスポートは日本のお役所ではあまり信用してもらえないのとで、早くからマイナンバーカードを作り、暗証番号は何と市役所が控の紙をくれたのでそれに記して持っていました。なので、いち早く10万円x2ゲット。

Jリーグが始まったら使ってやるう〜(おバカ)。

 

それはともかく。

お役所の手続きが煩雑なのは、日本だけではないようで。

 

わたしは、ダニエル・ブレイク

ケン・ローチ監督

2016年制作

 

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2016年・第69回カンヌ国際映画祭で、「麦の穂をゆらす風」に続く2度目の最高賞パルムドールを受賞した、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品。イギリスの複雑な制度に振り回され、貧困という現実に直面しながらも助け合って生きる人びとの姿が描かれる。イギリス北東部ニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイク(デイブ・ジョーンズ)。心臓に病を患ったダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができないでいた。シングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって追い詰められていく。

(いつものことですが映画.comの解説)

 

ケン・ローチ監督の作品は、どういうわけか縁がなくて、ほとんど見ていませんでした。

夫は飛行機の中で「エリックを探して」という、本物のカントナが出演する!作品を見て、なかなか面白かったそうです。

特に理由はなく、何だかずっと見逃していたのですが、この作品を見ると。

 

今までモッタイナイことをした。

わたしはこの監督と相性が良いと思う。

 

彼は非常に真っ直ぐ。

何のてらいもない。

ただ、真面目に怒っている。

 

…冒頭、画面はまだタイトルバックを映しながら、お役所の女性の声と、イラついた主人公ダニエル・ブレイクの声のやりとりから始まる。

ニューカッスルに住むダニエル・ブレイクは、長年大工をしていて腕に自信もあるのだけど、心臓を患い、医者に仕事を止められ、国からの援助金を受けようと福祉課に行く。すると、手続きが煩瑣で、わかりにくく、一般市民には理由のわからない順序や決まりがある上、必要な情報はインターネットのHPにあると言われる。

彼はPCなんかやったことがない…

うちのオジジよりは早くマウスを使えるようになったけど、それはそれは悪戦苦闘していました。(ちなみにオジジはついに使えないまま)

毎日憂鬱なお役所通いの中で、二人の子持ちのシングルマザー、ケイティに出会う。

彼女もロンドンからニューカッスルに出てきたばかりで、右も左もわからないのに、役所で邪険にされていたところを、ダニエルが声をかけて、助け合う仲になる。

彼女の陥った貧困の描写は、痛いほどリアルで、いかに空腹だったか、いかに惨めだったかが、鋭く伝わってきます。

ダニエルとケイティは家族のように助け合いながら、また、ケイティが貧しさに倦んで売春をするのを止めようとして喧嘩になりながらも、最後まで支え合っていきます。

その友情の温かさがこの作品に奥行きを与えていると思います。

 

しかし、行政の人間あくまでも制度の奴隷となっていて、ダニエルやケイティを一人の誇りを持った人間としては見てくれない。

彼らとて、仕事が終われば、家に帰れば一人の感情を持った人間のはずですが、いざ仕事となると、課せられた任務の遂行だけが優先されます。

ダニエルの怒りはついに爆発。

真面目に働き、税金もきっちり収め、病気の妻の介護まで一人でして生きてきたダニエル・ブレイクの、人としての誇りが、彼に怒りの行動を取らせます。

 

ハッピーエンドではないのですが、表情に張りのあるケイティに少しの希望が見出せるところで終わります。

こりゃあ、ヨッチも苦労してるだろうと(←ほら、またわかりにくい)思われるニューカッスル方言、ジョーディとか言うらしいけど、そういうあまり上品な言葉使いではないダニエル・ブレイクですが、一人の人間としての尊厳は十分に表した姿だったと思います。

 

彼らの日常の描写とか、福祉職の人でもそれぞれの立場の違いとか、細かい表現もよく描けています。

この人もシドニー・ルメットと同じく、50年間ブレずに問題を描き続けてきた監督ですが、ルメットよりも真っ直ぐで、純粋な怒りが見えるように感じます。

そして、期せずして今のこの時期に大変マッチした内容の作品となりました。

 

きっとこういう役所関係の手続きで、イラついている人が今はとても多いでしょう。

自分の方が準備が足りず、窓口で怒鳴り散らして顰蹙を買うオジジなどもいるそうですし、お役所も気の毒なところはあります。

でも、何しろ窓口の係りの人にとっては毎日やっている常識でも、初めて行く市民にはわからないことだという認識は持って欲しいものです。