家で映画でも〜「笑う故郷」

アルゼンチンというと、どうしてもマラドーナ、メッシと思い浮かべてしまう。

あとは無理に思い出すと、ボルヘスコルタサルと、小説家になります。

ボルヘスコルタサルもそんなに楽に読める作品ではない。

「石蹴り遊び」も相当難渋した挙句、どんな小説だったかあまり覚えていない、という自分のアホさ加減を再認識させられてしまいます。

 

で、アルゼンチン映画です。

作品中にも「アルゼンチンが生んだヒーロー、マラドーナボルヘスにメッシ…」というセリフがあるので、まあ普通の連想ですね。

 

笑う故郷

ガストン・ドゥプラット、マリアーノ・コーン監督

2016年制作

 

2017年に岩波ホールで公開されたそうです。

岩波ホールにもずいぶん長いこと行ってない…

 

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主演のオスカル・マルティネスが、2016年・第73回ベネチア国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したコメディドラマ。故郷のアルゼンチンを離れ、30年以上スペインで暮らしていた主人公のノーベル賞作家・ダニエルが、アルゼンチンから名誉市民賞を授与されることになり、2度と戻らないと思っていた故郷へ戻ることを決めたことから、思わぬ展開に巻き込まれていく様子を、ユーモアとウィットを交えて描く。2016年・第13回ラテンビート映画祭および第29回・東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門では「名誉市民」のタイトルで上映された

(いつもすんません、映画.com)

 

解説に「コメディドラマ」とありますが、それに邦題も「笑う」とあるけど、そんなに笑えないですから。

苦笑するところはありますが。

 

冒頭からびっくりさせられるのは、日本人が受賞するとTVのニュースで散々流れるように、タキシードを着て出席することになっているらしいノーベル賞の授賞式に、主人公ダニエルがカジュアルファッションで出席する。

それだけでなく、スピーチで「この受賞は、権威に評価されたことで、私の文学の衰退だ」というようなことを述べて、会場を凍らせてしまいます。

 

 

その後、マドリードの公園か、動物園かで、何やら無謬をかこつような彼の姿…

その彼の視線の先に、鮮やかな桃色のフラミンゴの死体がある。

ここは印象的なシーンです。

 

マスコミのインタビューもほとんど断っていて、もともと偏屈な人なのだろうけど、性格だけではない、彼の行き詰まりのようなものを感じさせます。

 

そこへ、30年前飛び出したきり帰っていない故郷のサラスから、「名誉市民賞」を授与するから帰国してほしいとの連絡。

 

サラスか…ついサラス、サモラノ、東京ではササ、とアホなことをつぶやくワタクシ…(←だから誰もわからないって)

 

 

で、なぜか帰ることに。

ノーベル文学賞作家として凱旋?した故郷でしたが、故郷はそんな生優しいところではなかった。

俗人だらけの故郷で、それでも彼としてはかなり愛想良くつまらん頼み事も引き受けていました。

しかし、徐々にややこしいことになって…

 

市民の絵画コンククールの審査員にされて、真っ当な評価を下し、ちょいとした有力者の絵を落選させたら、ひどく怒りを買う。

ここは笑っちゃうほど酷い絵なのです。

元カノが学校時代の親友?と結婚していたのですが、元カノはダニエルにまだ気があるようだし、夫である友達の方は有名小説家に嫉妬しているのか、何だか嫌な雰囲気…

火に油を注ぐことになるのは、彼らの、コケティッシュできれいで頭も悪くなさそうな娘。

その存在により、ダニエルは自業自得なところもあるけど、窮地に陥ります。

 

笑うどころか、何やら恐ろしげな展開に。

 

最後に、わたしのようなな〜んも考えずに見ていた素直な鑑賞者を「あれま、なあんだ」という仕掛けもあり、なかなか意地悪かつ一筋縄ではいかない作品でした。

 

ダニエルもこんな人、身近にいたら嫌だろうな、というところがあり、町民にしたら、「ケッ、いけすかねえ野郎だ」と思ったのでしょう。

 

ただ、しかし、小説家というのは、映画監督でもそうだけど、他者にとっては、本人より作品が「彼そのもの」であるとも言えます。

その点、ダニエルと、ホテルのフロントの青年とだけは、もしかしたら、通い合うものがあったかもしれません。若い彼はダニエルを同じ故郷の人というより、小説家として見ていました。

町の人はダニエルに何を望んでいたのか、何か「いいもの」をもたらすことを期待していたのに、偏屈な一人のオヤジが来ただけだったので、がっかりしたのでしょうか。やはり故郷ってメンドクサイところがある。ちなみに、わたしには故郷がないので気楽ではあります。