家で映画でも〜「パターソン」

これは、巣籠もり生活をしているときなどには、特に良い映画ではないかと思います。

愛すべき日常が描かれていて、すごいドラマは何もないけど、見終わって充足感の残るような作品です。

「パターソン」

ジム・ジャームッシュ監督

2016年の作品

 

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ジム・ジャームッシュが「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」以来4年ぶりに手がけた長編劇映画で、「スター・ウォーズ」シリーズのアダム・ドライバー扮するバス運転手パターソンの何気ない日常を切り取った人間ドラマ。ニュージャージー州パターソン市で暮らすバス運転手のパターソン。朝起きると妻ローラにキスをしてからバスを走らせ、帰宅後には愛犬マービンと散歩へ行ってバーで1杯だけビールを飲む。単調な毎日に見えるが、詩人でもある彼の目にはありふれた日常のすべてが美しく見え、周囲の人々との交流はかけがえのない時間だ。そんな彼が過ごす7日間を、ジャームッシュ監督ならではの絶妙な間と飄々とした語り口で描く。「ミステリー・トレイン」でもジャームッシュ監督と組んだ永瀬正敏が、作品のラストでパターソンと出会う日本人詩人役を演じた。

(毎度映画.comより)

 

「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」は映画館で見ました。

これもわりと気に入った作品でした。

ジャームッシュという人は、「オンリー・ラヴァーズ…」のような「吸血鬼もの」でも、彼の性格なのか、おどろおどろしさは薄く、あっさりした仕上がりになるようです。

フィルモグラフィを見たら、日本で公開されたものはかなり見ていて、わりと好きな監督です。

 

この「パターソン」では、ジャームッシュの魅力満載。

映像もきれい。

登場するのは、パターソンというニュージャージー州に住む、バス(市営バスらしい)の運転手で、詩人でもあるパターソン、エキゾチックな美人の妻、おそらく妻が連れてきたらしい愛犬マービン。あえて加えれば夜マービンの散歩の途中で寄るバーのマスターや常連。

最後にパターソンに旅行にきた日本人で詩も作る永瀬正敏

パターソンを演じるのはアダム・ドライバー、わたしは見ていないけどスターウォーズに出ているのですね。いい俳優だと思います。

 

 

ハリウッド映画的大事件は起こらず、ちょっとした日常の事件がいくつか。

 

彼らの1週間が、朝目覚める時から始まります。

DVDのジャケットにあるように、毎朝の夫婦の寝姿から始まり、だいたいパターソンが先に起きて、一人でシリアルだけの朝食をとる。チョコリングみたいなやつを小さめのボウルに1杯なんだけど、それであんなに痩せているんだろうか?

そしてバスの運転の仕事を1日。運転しながらも、頭の中では、詩の言葉が紡がれている。

画面には、その言葉が文字で書かれていきます。

彼は、自分の詩をPCに打ち込むことなどしないで、開いた時間にノートに記している。

そもそも携帯電話も持たないし、あれば良かったのに、という経験をしても、携帯を持つ気はない。昔気質というのでもなく、どことなく世間離れはしているけど、決して偏屈でもない、むしろたいそう優しい。

優しいというのは、妻との関係もそうで、妻は変わった人で、写真を見れば分かるように、毎日家の中や、自分の服に白と黒の模様を描いて過ごしていて、食事や彼に持たせるランチは、あまり美味しそうではない…というか、何か変わった料理に挑戦して、あまり普通のものを作らないようです。でもパターソンは文句も言わず、水で流し込みながら、そのちょっとヘンなところも愛おしい様子。

詩にも妻への愛は詠まれています。

ジャームッシュの作品にはちょっと変な女子が散見されるので、これも監督の好みのよう。

 

そして夜には愛犬マービンの散歩で、その途中のバーでビールを一杯飲むのが楽しみのようです。

このマービンがなかなかの役者。

第69回カンヌパルムドッグ賞を受賞した、とHPにあるのは笑っちゃう。

でも本当に役者で、コイツのおかげで彼の1週間のうちで、最も大きな事件が起きてしまいます。

 

 

大事な詩のノートがなくなり、いつも一休みしながら詩を想う公園で、パターソンが打ちひしがれて座っていると、そこへ何だか不思議な日本人が。

その日本人はパターソンの座っているベンチの隣に座る。

そして、パターソンが最も愛する詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムの詩集を手に持っていて、ついその表紙に目を止めたパターソンに話しかける。

パターソンな詩が好きで、自分でも作るが、仕事はバスの運転手だというと

「パターソンのバスの運転手、詩的ですね」というのは、わたしも大変共感します。

 

昔「畳屋の詩人」という高校生を知っていて、この映画を見ながら彼を思い出したのです。(残念ながら畳屋の詩はあまりうまくはなかったけど)

 

いくつかの会話の中に日本人が「翻訳した詩はダメ」ということも言うのですが、わたしは日本語以外の言語はわからないので、そう言われると…そうかもしれないけど、元の詩とは違ってもなお良い詩もあると思うけどね。

 

 

この日本人は何者なのか、新しいノートをパターソンにお土産だと渡して、そのまま「アハ〜」とか言いながら去っていく。

日本人の風体は取っているけど、どこかの詩の世界から遣わされたもののように見えました。

 

そうしてパターソンの一週間が終わり、多分彼は再び新しいノートに、日常から生み出された言葉を綴っていく。

 

 

細かなところにもちょっとした悪戯のような言葉やシーンがはめ込まれ、日常の描写ながら、見ていて飽きることはありません。

それよりも、普通に平凡に生きていることの愛おしさを感じる作品です。