家で映画でも〜「COLD WAR あの歌、2つの心」
「家で映画でも」で見たうち、最も美しく悲痛な作品です。
映画らしい映画を見たという、充足感をたっぷり味わうことができました。
COLD WAR あの歌、2つの心
パヴェウ・パブリコフスキ監督
ポーランド=イギリス=フランス映画 2018年制作
1949年のポーランド。国内の村々から才能のある若者が集められ、国立マズレク舞踊団が結成された。その中心人物で音楽監督でもあるヴィクトルは、養成所にやってきた歌手志望のズーラと恋に落ちた。しかし当局から目をつけられたヴィクトルはパリへ亡命する。1954年、パリでジャズバンドのピアニストとして生計を立てていたヴィクトルは、舞踊団のツアーでやってきたズーラと再会。再び激しい恋が燃え上がるが…。
2014年度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した『イーダ』のパヴェウ・パブリコフスキ監督による、冷戦下のヨーロッパを舞台に15年に及ぶ男女の別れと再会を描いた作品。本作も世界中で高い評価を受け、アカデミー賞3部門ノミネート。カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞している。モノクロの画面の中、冷戦に引き裂かれて生きる男女の愛が描かれるが、映画が暗く重くならないのは、主人公2人のクールなたたずまいと、音楽が重要な役目を果たしているからだろう。
(今回はhttps://movie.jorudan.co.jp/cinema/37285/から借りました)
イェジー・カヴァジェロヴィッチ「尼僧ヨアンナ」
アンジジェイ・ワイダ「地下水道」「鉄の男」「大理石の男」…
ポランスキー「水の中のナイフ」
他にも見逃したけど、良さそうな映画が色々。
そして、これです。
ポーランド映画侮るまじ。
まずモノクロの映像の美しさに、すぐに引き込まれます。
共産主義政権下のどこか田舎の教会のようなところに、大勢の若者が集められ、音楽のオーディションを受けさせられる。
ヒロイン・ズーラもその一人で、そこで知り合ったもう一人の少女と、母親から禁じられた悲恋を歌う民謡をデュエットします。
そのシーンで、音楽監督のヴィクトルは彼女に一目惚れするのですが、見ているこちらも、ズーラのスラブ的美しさに目を奪われます。
そういう評価がパヴリコフスキ監督にとって本意かどうかわかりませんが、わたしのような東欧をよく知らない者には、この作品がスラブ的激情に貫かれているように感じます。
ズーラは初めから悲劇を背負っている娘で、性的虐待をした父親を殺して保護観察中という立場。なので、他の教授たちは彼女を要注意人物のような目で見ています。が、すっかり心を奪われているヴィクトルには関係なく、二人は早々と深い仲に。
ズーラもヴィクトルも音楽を純粋に愛し、音楽団では民族音楽の採集もしていたようです。しかし、共産主義政権下では、ポーランド民謡だけではなく国威発揚、指導者賛美の歌を歌うように強制されます。政府に従うことに消極的なヴィクトルは当局から目をつけられ、舞踊団のフランス公演を機会に、亡命する。待ち合わせて一緒に亡命するはずのズーラは来ない…
ここからくっついたり離れたりに。
パリで再会し、再び恋が燃え上がる。ジャズでそこそこやっていたヴィクトルは友人などに掛け合って、悲恋のポーランド民謡をジャズに編曲したのをズーラにレコーディングさせる。
そのジャズの歌も良かったと思うのだけど、二人はゴタゴタして別れ、ズーラはポーランドに帰ってしまう。
二つの心、とは、同じ曲でポーランド民謡とジャズのこと、と上記の解説にはありました。
そうだろうけど、もう一つ、パリの西欧的なものと、ポーランドのスラブ的なものというのもあると思う。
多少やつれようがパリで生きようとする、ジャズをやりたいヴィクトルと、やはりポーランド人が捨てられないズーラという二つの心も。
しかし、二つの心は、どうしてもお互いに引き合い、再びポーランドへ。
ここから二人は悲劇へと疾走します。と言っても、画面はあくまでも抑えてあって、大袈裟な演出はありません。
ズーラはポーランドで、舞踊団付きの当局監視係みたいないけすかないヤツと結婚して、その縁で収容所送りになったヴィクトルを解放してもらう。
ズーラとヤツのかわいそうな幼い息子は、ズーラがおそらくそうだったように、親に愛されていない様子が伝わってきます。ほんのワンシーンですが、細かいところも丁寧に作られています。
最後にズーラがステージで歌わされていたのはラテン音楽でしたが、好きでもない奴と暮らし、好きでもない歌を歌ってすっかり憔悴していました。
収容所から出てきたヴィクトル(収容所でスパイとして拷問され、手指が動かなくなって、ピアノも弾けなくなった。彼が軽く言うところにその経験の残酷さが滲む)と、ズーラは二人の愛を完結させようと、最初に見た教会のような廃墟へ行きます。
結ばれることがない男女の愛、と上記の解説にはありますが、そうとは言えないように思います。
抑圧の中での二人の緊張感と、それでも止まない音楽と、愛する感情を、モノクロの抑えた映像で、美しく描いた作品でした。