飛行機の中で映画を見るのは、結構楽しみです。
ここ最近国際便には乗っていないので、そういう機会もありませんが。
「ロード・オブ・ザ・リング」もそれで見たのだけど、ラストの
ああっ!指輪が!!!
というところで飛行機が着陸態勢に入り、画面が消えちゃった…
上映時間をよく考えないとこういう悲劇が起きるのさ。
で。この作品も夫が機内で見て、「なんかカントナの出てくる映画見た。
面白かった」と言っていたものです。
U-NEXTにあったので見ました。
ケン・ローチも楽しみながら作ったのでしょう、痛快で面白い。
「エリックを探して」
ケン・ローチ監督
2009年の制作。
サッカー好きのすこーし年取った人なら誰でも知っている、エリック・カントナが出演しますが、サッカー映画ではなく、これもケン・ローチ監督らしい、うだつの上がらない庶民の話です。


場所はイギリス(イングランドと言いたいが)マンチェスター、カントナが出るんだからそりゃマンチェスターだろ、と言うあなたはサッカー好き、そこは一応置いといて。
マンチェスターの郵便局員エリック(スティーヴ・イヴェッツ)は、生活にくたびれた冴えない中年男、仕事でもミスして落ちこんだり。家庭でも、2度の離婚をして、出て行った2番目の妻の連れ子2人と暮らしているが、その2人の男の子がまーったくいうことを聞かず、兄はすでに不良、弟も不良予備軍。家にマリファナを持ち込み、親父の留守中に仲間を呼び込んでは吸引したり、女子とむにゃむにゃ…
しかも、親父は息子たちを叱りながら、息子の隠したマリファナをこっそり出して吸引する情けなさ。
しかし、職場ではいい仲間に恵まれていて、特に「ミートボール」というニックネームの(当然丸い体型)ヤツは、親身になってくれる。
最初の妻には大学生の一人娘がいて(未婚の母でもある)、妻も立派に生き生きと仕事をしている。
それに引き換え俺は…と、落ち込むエリック。
エリックの部屋は、彼のヒーロー、エリック・カントナのでかいポスター、大小の写真、マンチェスターユナイテッド(以下マンU)のペナントやらなんかで、赤く彩られている(あたしゃ基本的に赤一色は嫌なんだがね←)。
落ち込んだエリックは、マリファナを吸いながらポスターのカントナにすがるように話しかける…
気がつくと、椅子にカントナ本人が座っている。
その日から、カントナは折々に現れて、エリックにアドヴァイスをするようになる。
カントナもエリックの(正確には息子の)マリファナを一緒に吸うのだけど、いいんだろうか?
というのはさておき、カントナがまずフランス語で何やら呟き、それから怪しい英語で格言めいたことを言うと、エリックはその言葉を実行する。
エリックの方も、仲間も、すごいマンチェスター訛りだから、英語でも聞き取れないけど。
1番の窮地は、長男が、マンUの試合のチケット(貧乏なエリックには買えない値段)を餌に釣られ入ったギャング一味に、彼らが殺人に使った拳銃を預けられたこと。
警察に言うこともできず(ケン・ローチは警察嫌いだし)、ギャングに散々脅しをかけられたエリックですが、カントナに仲間を信頼しろ、と言われてミートボール初め仲間(マンUサポ)に相談する。
サポ仲間はみんなマンUのユニを着て(ちなみに日本のサポはユニフォームのことを『戦闘服』という人もいる)、カントナのフェイスマスクをつけて、サポ旅よろしくバスを仕立ててチャントを歌いながら、ギャングの根城に向かいます。
せっかくマンUのスーパースター、カントナの出演、総指揮監督ですから、ここはハッピーエンドです。
初めからあり得ない御伽話ではありますが、思うように生きていけない庶民への、ケン・ローチ監督の温かい眼差しがあります。
彼はヌニートンというところの出身だそうですが、イングランドですから当然地元にはナニートンFCというクラブがあるけど、わたしは知らない、少し近いところではコヴェントリーがある…コヴェントリー・ガーデンは今何部にいるのか?
あ、わかりにくい話になっちゃった、つまり、ニューカッスルが舞台の「わたしはダニエル・ブレイク」でもこの作品でも、彼のフットボール好きが、よく伝わってきます。
イングランドでは、15年ほど前に2年滞在していた義妹も言ってたけど、フットボールは庶民、というか下層階級の好むもので、義妹のようなインテリ階級(当時大学講師夫人)の特に女性は、フットボールなど下品なものは嫌いであるべきなんだとさ。
ケン・ローチならずとも、ヘッ!と言いたくなる…
ケン・ローチはそういう社会構造の中で、常に下にいる人、虐げられている人に目を向けている。
タイトルにあるエリック、ポスターから抜け出た方のエリックは、スキャンダルも多く、いろいろやらかして出場停止を何度も食らった選手で、反骨精神旺盛のかなりの変わり者です。
しかし、プレーは豪快にして繊細、快心のプレーはシュートよりラストパス、と自身が言うような、エゴむき出しのFWではなくむしろチームを導く選手で、ファーガソンのマンUに優勝をもたらした第一人者でした。
そのカントナは数々の名言(暴言も)でも知られ、この作品の最後に当時のフィルムが流される
「カモメがトロール船を追うのは、鰯が海に投げ込まれると考えているからだ。どうもありがとう」
と、マスコミを揶揄した言葉は、あまりにも有名です。
この辺の経緯については
西部さんの記事が面白い。
西部さんの言うように、カントナはカントナを演じていたのかもしれない。
すると、本編をカントナが着想し、持ち込んだ、ということも肯けるように思います。
ついカントナで字数が増えたけど、サッカーファンでなくても楽しめる映画です。