すでにいろんな人がレヴューに書いているように、この邦題はいただけません。
原題通り"The Sisters Brothers"の方がずっと良かった。
砂金取りに行く話なので「ゴールデン・リバー」なのでしょうが、個性のないタイトルになってしまいました。
「ゴールデン・リバー」
ジャック・オーディアール監督
何の予備知識もないままWOWWOWで録画してあったのを、今まで西部劇見てないから、今回は西部劇の新しいやつでも見ようか、と、選んだものでした。
「なんか監督、フランス人みたいな名前だね」
なんて言ってたら、みたいではなく、フランス人が監督をしたアメリカゴールドラッシュの時代の映画でした。
しかも寡聞にして(もう最近こればっかり恥)、知らなかったけどオーディアールはすでに評価の定まった監督のようです、知らんもんは知らんがすまんすまん。
フランス人の撮った西部劇!?ということなのですが、オーディアール監督自身は「わたしは西部劇を撮ったつもりはない」と言っています。
ところで、うちは夫は西部劇が好きなのですが、わたしは相当の西部劇オンチ。話も覚えられず、何を見てもごちゃごちゃになってしまいます。
マカロニ・ウェスタンとの違いくらいは分かりますけど…
わたしはそんな貧困なセンスで見たので、これがどうなのかよくわかりませんが、夫が言うには、
まずゴールドラッシュの時代は、西部劇の終わりの時代。
それはそれとして、この映画は、西部劇ではない。と。
監督もそう言っているし、1850年代ゴールドラッシュに沸くアメリカを舞台にした、無頼の兄弟の話ということで良いようです。


「ディーパンの闘い」「君と歩く世界」「真夜中のピアニスト」などで知られるフランスの名匠ジャック・オーディアール監督が初めて手がけた英語劇で、ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドという豪華キャストを迎えて描いた西部劇サスペンス。2018年・第75回ベネチア国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞した。ゴールドラッシュに沸く1851年、最強と呼ばれる殺し屋兄弟の兄イーライ(ジョン・C・ライリー)と弟チャーリー(ホアキン・フェニックス)は、政府からの内密の依頼を受けて、黄金を探す化学式を発見したという化学者(リズ・アーメッド)を追うことになる。政府との連絡係を務める男(ジェイク・ギレンホール)とともに化学者を追う兄弟だったが、ともに黄金に魅せられた男たちは、成り行きから手を組むことに。しかし、本来は組むはずのなかった4人が行動をともにしたことから、それぞれの思惑が交錯し、疑惑や友情などさまざまな感情が入り乱れていく。
Sistersという姓をもつイーライとチャーリーはひどい無頼漢の父親に虐げられて育ち、チャーリーが父親を殺してしまったという過去を持つ。
イーライはそのことで弟に引目を感じている…って、どんだけ悪い父親なのか。
二人ともその父親のおかげか、馬鹿みたいに強い殺し屋となり、「提督」と呼ばれる男に使われる身となる。提督は無慈悲な男で、めんどくさい奴は次々に殺させ、失敗すれば自分たちが今度な狙われる、そんな日々を送っている。
イーライはそんな生活に嫌気がさしているようだけど、チャーリーは兄より要領よく提督に取り入って、兄より厚遇されるようになる。
兄弟でも微妙な関係。
でも旅の途中、お互いに髭を切ったり、髪を切ったりし合う。
仲が良いなどという生易しい表現では言えない、"The Sisters Brothers"。
イーライの人物像が面白く、毎夜女物のスカーフの匂いを嗅いで寝る…娼婦にそのスカーフをプレゼントしてもらうふりをさせる…ものすごく強いのですが、とても弱く繊細はところがあります。
西部劇と違う、というのは、冒頭から撃ち合いのシーンはあるのだけど、真っ暗で(夜)見えず、敵が誰だかもよくわからず、銃声が消えてから、惨たらしい死体が転がっている。
撃ち合いらしいシーンは、砂金を取る川で行われるところくらい。
だいたいラスボスであろう提督も、思いがけない形で作品中から去ります。
もうこれで最後にしようという仕事が、黄金を探す化学式を発見したという科学者を捉えて何がなんでも化学式を聞き出すということと、その男を追っているはずの連絡係の男ジョン・モリスが裏切ったのではないかとの疑いで、ジョンをも追うことになります。
このジョンが面白くて、いつも丁寧な文章の手紙をよこす。
兄弟からは気取った奴、と言われています。
ジョンは科学者のハーマンから採集した金を元手に、貧乏人もなく搾取もない平等な理想の社会を作るという夢を聞かされ、その話に心を奪われている。
ハーマンを提督に引き渡す気も化学式を教える気もないようです。
そして、兄弟は色々なエピソードを加えつつ(途中でとんでもなく大きな女ボスを倒してお金を奪ったり)、この二人に加わって、砂金取りをします。
現代人の目から見れば、化学式で金が取れると言っても、環境破壊そのもの。そんなの素手でやって、無事で済むはずないし…


そして、欲が孕んで罪を生み、罪が熟して死を生みます、の言葉通りのことに。
理想郷を夢見ていた二人はかわいそうなことに。
そして、彼らの理想郷には関心のなかった現実主義そのものの兄弟は、体の一部は失ったけど無事に生き抜きます。
提督の命令には背いたのですが、前述のように思いがけない形で提督も去ったので、おそらく少年の頃飛び出したきりの、我が家へ帰ります。
母もあらくれ女で凄まじいのですが、二人が「危害を及ぼさない」兄弟であると分かってからは、母の顔に戻ります。
兄弟は女ボスから奪ったお金と、砂金も持っているのでしょう。
「お家」で温かい食事をとり、ベッドでゆっくり安眠する、実はこれぞ理想郷かもしれない、と見ているわたしが思うところで、4人のうちこの兄弟だけはハッピーエンドでした。
多分視聴者の女性はそういう人が少なくないかと思うのですが、わたしはジョンが気に入ってたので、生き残って欲しかった…
でも、理想郷の話に感化される、丁寧な手紙文を書ける男なんて、やっぱり去ってしまうタイプでしょうね。
ゴールドラッシュ時代を舞台にした無頼の兄弟の、ちょっと捻った話でした。