今年の初劇場映画〜世界で一番美しい少年
予想されたこととはいえ、年が明けてから急速に新型コロナの感染者が増えてきました。
わかってても防ぐことはできないのでしょうかねえ…
お正月の間は検査件数も少なかったのだろうと思うけど、感染者が多くなかったので、せっかくのお正月、劇場で映画を見ようということに。
立川の高島屋にkino cinemaという映画館ができて、なかなか面白い作品を上映するので最近気にいっています。ちょっとしたお金持ちのプライベート上映ルーム程度?の小さな箱もありますが。
で、今年の初劇場映画はこれ。
世界で一番美しい少年
監督 クリスティーナ・リンドストロム
クリスティアン・ペトリ
例によって映画.comからお借りします。
ルキノ・ビスコンティ監督の「ベニスに死す」(1971)で主人公を破滅に導く少年タジオ役を演じたビョルン・アンドレセンの50年間に迫ったドキュメンタリー。巨匠ルキノ・ビスコンティに見いだされて「ベニスに死す」に出演し、「世界で一番美しい少年」と称賛されたビョルン・アンドレセン。世界中から注目を集めた彼は、日本でもファンに熱く迎えられ、池田理代子の漫画「ベルサイユのばら」の主人公オスカルのモデルになるなど、日本のカルチャーに大きな影響を及ぼした。それから50年近い年月が流れ、アリ・アスター監督作「ミッドサマー」(2019)の老人ダン役でスクリーンに登場し、その変貌ぶりが話題となったアンドレセン。年老いた彼は、かつて熱狂の中で訪れた、東京、パリ、ベニスへ向かい、懐かしくも残酷な、栄光と破滅の軌跡をたどる。その旅路とともに、人生を運命づけられてしまったひとりの人間の心の再生を映し出す。
2021年製作/98分/G/スウェーデン
原題:Varldens vackraste pojke
配給:ギャガ
実はワタクシもヴョルン・アンドレセンにはちょっとばかり心惹かれた思い出があって…
でもそれは、ルキノ・ヴォスコンティ監督トーマス・マン原作の「ベニスに死す」に登場する美少年タジオへの関心であり、ヴョルン・アンドレセン個人への興味ではありませんでした。
それでも、世界には美しい少年がいるものなのだなあ…とびっくりした覚えはあり、アッシェンバッハよろしく、ついタジオを目で追いかけるように映画を見た覚えがあります。
そして、その後TVなどの映像で見た彼は、タジオに勝る美は表出していなかったと思います。それが恐るべき美への探究を見せるルキノ・ヴォスコンティの力でしょう。
少し先走った…
ドキュメンタリーというのは、素材をどのように見せるかで、ひどくつまらなくなったりもするものですが、この作品はヴョルン・アンドレセンと適度な距離感を持ちつつ、寄り添って描かれていると思ったし、アンドレセンの送った過酷な人生が、否応なく迫ってくるものでした。
映画は、自堕落な蛆がわくような生活をしている年取ったアンドレセンを、恋人がなんとか部屋をきれいにし、立ち直らせようとするところから始まります。
現在の彼の不器用な振る舞いを見せながら、そして少年の頃の思い出が語られます。
彼の少年期については、
アンドレセンの娘が「時間を戻せるなら、おばあさんのところへ行って、こんなのやめて。児童虐待だわ、と言ってやりたい」。と、自分の曽祖母を批判していましたが、まさにその通り。
このアンドレセンの祖母がモンスター。
アンドレセンは母親似らしく、その母親は芸術家で繊細で、彼が10歳の時に謎の自殺をしてしまう。
年を取ってからアンドレセンは母親の死の詳細を知るのだけど、その場面も静かに描かれていますが、大変な痛みが伝わってきます。
(警察署の死亡事故の資料保管係でしょうか、よくわかんないけど、その応対した女性がとても思いやり深くて、ああいうおそらく官立の施設であんなに暖かい対応ができるのは、彼女の美徳か、この国の福祉のあり方なのでしょうか)
母親を亡くしてから、ヴョルンはおばあさんと暮らします。
そして15歳になるまでは普通の少年として、友達と遊んだり学校に行ったりごく当たり前の思春期を送っていたようですが、ヴィスコンティが「ベニスに死す」の少年タジオを探している、というところから大変換が起こります。
おばあさんがそのオーディションを彼に受けさせ、そしてヴィスコンティはすぐにヴョルンを気にいる。
ヴィスコンティは「タジオ」としてのイメージをアンドレセンがこわさなければそれでよく、その後の彼には何の関心も持たなかったようです。
それはともかく「世界で一番美しい少年だ」とヴィスコンティが彼を評した言葉が世界を駆け巡り、日本まで届いてしまう。
そして、お金を稼いでおいで、と祖母に無理やり押し出されて日本へやってきます。
年取ったアンドレセンは往時の自分をなぞるように来日し、その時宿泊した帝国ホテルに泊まって、自分の足跡をたどります。
この「世界で一番美しい少年」の日本滞在のシーンは、私にはとても胸が痛む、そして恥ずかしいものでした。
最近行われたインタビューで、アンドレセンはこの日本での「興行」について聞かれ、日本は好きだ、歌は恥ずかしかったが、みんなよくしてくれた…と、ネガティブなことは一言も言ってないのですが、これは実際のところ彼の性格の良さを表しているようです。
しかし、私は彼の来日当時まだ一応少女だったけど、ひどくガッカリした記憶があります。
TVでは彼にキャーキャー嬌声を上げる女子が映されていたのですが、私はヴョルン・アンドレセンにはいつまでも遠い物語の中の「タジオ」、アッシェンバッハを結果的に死に追いやる恐ろしいほどの美少年「タジオ」でいて欲しかったので、日本の歌番組に出てきて、へっぽこな歌謡曲?みたいのを歌う彼、チョコレートのCMで媚びを売る彼には、とても失望しました。
しかし、この映画を見て、その当時彼にはほとんど自分の意志というものがなく、おばあさんの言いなりに日本へ「稼ぎに」来て、「良い素材」を得た日本の芸能界にボロボロになるまで使われた、いわゆる少年虐待を受けていたのだった、とわかりました。
そんな彼に失望してかわいそうだったと思い、また彼にまともな保護者がいれば…と、とても気の毒に感じました。
ここで登場するプロデューサー酒井某などは、今もご活躍のようですが、年端の行かない少年(おそらく少女も)を商売道具にして「良い素材」とか言って、虐待かそれスレスレの扱いをして、ご成功なさってたんだな〜と、画面越しにぶん殴りたくなりました。
彼はこの映画で、世界中に彼と日本の芸能界の残酷さと貪欲さを、嬉しそうなしたり顔で披露してしまって、彼自身はなんとも思わないだろうけど、私はひどく恥ずかしくなりました。
この日本滞在が、彼のその後のアルコールや画面ではほとんど語られていないけど薬物などを摂取するきっかけになったかもしれず(そのように示唆されてる)、本当にかわいそうなことをした…と、当時の彼に謝りたくなってしまいます(私が謝っても無意味なのはわかってますが)。
その後も彼には過酷な人生が待っていて、それは彼自身の弱さが招いたこともありますが、環境や不運もあって、描かれなかった数10年もさぞかし厳しかったのだろうと想像されます。
ビョルン・アンドレセンは音楽が本来は好きで…PCで作曲する時間が一番好きなのかもしれません。
映画の前半に出ていた恋人とは別れ、また新たなパートナーか友人かよくわからないけど、語り合える女性もできたようで、世間から孤立する癖はあっても、完全に孤立しているのではない。
それに数々の過酷な出来事にあったにもかかわらず、何かちょっと不用意な無垢さや繊細さ、そして日本に関するインタビューにも現れていた人のよさなどが現在のアンドレセンから伝わってきます。
まだ敗残の人生というには早いでしょうし、彼が平穏で幸せな日々を送ることができたら…と、願わずにはいられません。