瞳の奥の秘密

最近映画の書庫などやめようかと思うほど、映画館に行かなくなりました。
まず、見たいと思う映画がないのよね。
最後に見たのは、去年の「チェ28歳」「39歳」2編でしょうか。これはなかなか面白かった。
特に「39歳別れの手紙」。成功談より失敗談の方が味わいがあります。チェの生涯青年、学生っぽい純粋さが彼自身と仲間を破滅まで突き進ませるところ、良く描けていました。
それ以来何か映画館で見たかな?見たとしても覚えていないほどのものなのか、わたしの記憶力がおっそろしく低下しているか?
 
今日は本当に久しぶりに映画館に行きました。
何もしなくても良い休日だったので、急に思いついて、やほー映画で検索・・・なかなか食指が動く作品がない・・・渋谷でやっている「レフェリー」というハワード・ウェブのドキュメンタリーはちょっと観たいのですが、時間が合わない。それに確かUPLINKってスクリーンがホームシアターみたいに小さかったと思う。映画の甲斐はあまりない。
 
仕方なく新宿武蔵野館で10何年ぶりかで行くことに。
久しぶりに古い映画館のカビの匂いをかぎながら・・・
観たのは「瞳の奥の秘密
 
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昨年度は「おくりびと」でしたね。観てないけど。
わたしは、特に最近のアカデミー賞には懐疑的なので、これもあまり期待しないで行ったのですが・・・・
思いの外に、たいそう面白い作品でした。
ホセ・ファン・カンパネラ監督という人、全然知りませんが、アルゼンチンの映画です。
 
アルゼンチンといえば何を思い出す?
やはりサッカー、アルゼンチン代表元監督でしょうか?メッシでしょうか?
この映画でも1シーンサッカー場が重要な場面として出てきます。
ラシンのスタジアム。ゴール裏の恐ろしいような熱気。
でも、この映画の主人公ベンハミン・エスポシト(リカルド・ダン・・・良い俳優です)は、サッカーにまるで興味なし。当然ながら国技のようなサッカーでも、関心のないアルゼンチン人もいるのですね。
 
サッカー以外では?
やはりチェ・ゲバラでしょうか。
モーターサイクル・ダイアリー」の若き日のエルネストもなかなか良かったです。成功を収めて天寿を全うするには、心が綺麗すぎたのでしょうか。
わたしはボルヘスとかフリオ・コルタサルといったアルゼンチン文学を思い出します。
といってもあまりよく知らない・・・コルタサルもちょっと難解。
「石蹴り遊び」は苦労して読みました・・・修辞にも構成にも凝る、一筋縄ではいかない作家というイメージがあります。
 
で、これがアルゼンチン映画と知って、俄然見る気になったのです。
苦労しないで観たり読んだりするよりは、手強い方が好きなので。
 
さてやっと本題。
そう手強い作品ではありませんでしたが、良質の出来映えでした
 
刑事物、推理物の形はとっていますが、テーマは愛です。
犯人捜しとか推理とかはあまり重要ではないと思います。
 
コロンビアの作家ガルシア・マルケスの「コレラの時代の愛」・・・以前書きましたが、南米の文化・・・というと大雑把過ぎますね。日本と中国を一緒にしたようなものです。でもその程度の知識しかないので、そういうのですが、南米の文化には独特の時間の観念があるのか、この映画も似たところがあります。
執着心や諦めの悪さ?なども。
だからサッカー強いのか・・・お○゛カなことを思います。
 
こういうストイックな愛、わたしは大変好きです。
でも淡い恋心などとは違って、恐るべき執着執念が底に流れています。そのあたりも好き。
軽い作品ではありませんが、なかなか上手に作られていてエンターテインメントとしても上質だろうと思います。
 
仕事と上司への日常的な不平を言いながら、事件現場に入って、その現場のありさまに息を呑む・・・あるいはすばらしく綺麗な若い人妻の微笑む顔・・・といった導入部分から、惹きつけるものがありました。
 
もしや観たいと思う人がいるかもしれないので、ストーリーには触れないでおきましょう。
 
追記。
70年代のアルゼンチンの政情を把握していた方がわかりやすいと思います。
あのW杯、アルゼンチン大会がどういう背景で行われたか。マリオ・ケンペスのすばらしい活躍などわたしの記憶には鮮明ですが、決勝で敗退したオランダチームがいかにひどい目にあったかは、その後知ることになりました。
何万人もの無実の人が軍事政権下で命を落としたこと、その政権下で国威発揚にもなったW杯。映画にはW杯は何も出て来ませんが、この政情が重要な背景になっています。