ぼくの好きな先生

 
高校の美術の担任だった先生が、毎年個展を開いています。わたしはほんのちょっと美術部に在籍して、へたくそな石膏デッサンを1枚描いただけで辞めてしまったダメな生徒だったので、卒業後お会いすることもあまりありませんでしたが・・・今年も個展のお知らせの葉書がきました。
妹も同じ高校で、彼女は3年間美術部に在籍して、しかも3年時のクラス担任も美術部の先生だったので、卒業後も交流が続いています。
妹から先生が重い病気で、自力で歩くのも大変なくらい弱っていらっしゃるから今年は見に行ってと言われて、ダメな生徒だったわたしも、先生の個展へ行きました。
確かにとてもお年をとられて、やせていらしたけど、声や話の調子などは変わらず、気力は充実されているようでした。

なによりも先生の絵。
 
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いつも明るい絵を描かれる先生でしたが、今回はいっそう明るい。
 
 
登山が好きで、先生の作品には多くの山の絵がありますが、すべて現地に行ってスケッチしたもののようです。
 
輝くような色彩で、体に不調や悩みがあるとは思えない。
わたしの好みとは違う作風ですが、難しい病気を抱えていられる先生がこんな絵を描かれた・・・と思うと、感動しました。
 
先生にはとても記憶されるはずもない生徒なので、そおっと見て帰ろうと思っていたのですが、絵葉書が欲しくて、先生の奥様に「○鷹高校の卒業生です。○○の姉です」と挨拶していたら・・・同年代の男性に声をかけられました。
「ぼくも○鷹高校の卒業生で、妹さんとは同じ学年です」
彼はちょっと逡巡するような表情を見せてから「実は、ボクは高校の時、妹さんには大変失礼なことをしてしまったんですよ」・・・
「それで、今まで妹さんに申し訳なくて、顔を合わせられないんです」と、突然の告白。
「そんな~大昔のこと、忘れてますよ~」とわたしが笑うと、彼は真剣な表情で
「いいえ。きっと覚えておられます」ときっぱり。
「じゃ、彼女に○○くんがそう言って気にしていたと伝えておきますね」などと言って画廊を後にする。
妹に聞いたら、○○くんのことは覚えていたけど彼の言う「失礼なこと」にはまったく記憶がないと。
 
きっと彼は姉であるわたしに告白して、重荷をおろすことができたでしょう。でも本人が忘れているようなことを長い間気に病んでいたなんて・・・彼はとても良い人なのでしょう。
ご病気の先生が渾身の力で描かれた作品も、卒業後ん十年も妹を傷つけたのではと気にしていたという○○くんの優しさも、心に残ったことでした。