ヨコハマ・フットボール映画祭2018「ベイタル・エルサレムFCの排斥主義」

最近、すっかり映画を見なくなってしまいました・・・

1月15日にヴェンダースの「アランフェスの麗しい日々」を久しぶりに・・・映画も、ヴェンダースも・・・見て、それを書こうと思いながら記事にできず・・・
ルー・リードの歌にのって始まり、ニック・ケイブが出てくるというヴェンダースらしい音楽、そして美しい夏の庭、光の中での男女の会話劇。劇中に写されるセザンヌ作品のような画質。
好きに撮ったのがよくわかるものでした。

映画的なもの、としてはこれをもっと書く方がいいのだろうけど、11日に見た作品もなかなかのインパクトだったので、記憶のちょっとでも新しいものを。

ヨコハマ・フットボール映画祭、確か去年だったかしら、植田朝日監督作品が上映されたのは?
今年も「ジョホールバル1997 20年目の真実」という作品が上映されましたが、わたしは11日に行ったので、上映日が違って見ていません。
上映作品の中で、見たいと思ったのは”You'll Never Walk Alone"と「ベイタル・エルサレムFCの排斥主義」の2本だったのですが、YNWAは前売り完売。
「ベイタル・・・」を見ることに。

会場の開港記念館には、なんかそぐわない感じの雰囲気を漂わせたヒトビトが出入りしていました。
まだ上映時間まで30分くらいありましたが、ウロウロしていると受付の若い女性に声をかけられたので、「映画を見に来ました」といい加減な答えをして、スマホの購入画面を見せると、入れ、と。
そんじゃま、と入ったらまだ前の作品「ユベントス・ストーリー」をやってる。
あーた、わたしはナンも不正は働いてないからね、お入り下さいと言われたのだからね、30分ただで見ちゃいましたが。
でも、お金払わなくてよかった、これはユヴェンティーノでなければちっとも面白くない作品でした。


また前振りが長すぎた。




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ベイタル・エルサレムFCの排斥主義
“Forever Pure”
1時間27分 イスラエル・イギリス・ノルウェーアイルランド 2016年 監督 マヤ・ズィンシュテイン
宗教、政治、金、差別、暴力、、、私たちにもありうる未来
イスラエルプレミアリーグにて、唯一アラブ人選手を受け入れてこなかったベイタルFC。あるシーズンの半ば、会長が、2人のチェチェン出身の選手を獲得する。ロシアとのビジネス拡大が目的だ。イスラム教徒の加入に、サポーターは猛反発、応援を放棄し、選手たちを脅迫するものも。
(映画祭の紹介記事を借りました)

原題"Forever Pure"は、ベイタル・エルサレムFCサポが掲げている言葉。
写真のサポーターの入れ墨は、旧約聖書で規定されている燭台だろうと思います。新約聖書の最後の書『黙示録』にも出てくるけど、彼らにとっては聖書は旧約までなので。


この作品、映画としてどうか・・・と言う部分では、ドキュメンタリー映画について考えさせられます。
内容としては、すでにこれはフットボールではない。
と思うと同時に、これはフットボールの深層にあるものだ、とも思う。
このベイタルFCに係わる人々、特に選手にとっての不幸の一つは、小型アブラモヴィッチみたいなオーナーが、フットボールを全く愛していなかったことでしょう。
そして、ラ・ファミリアというコアサポグループも、本当にフットボールを愛しているのではなく、自らの思想信条と力を誇示する場としてフットボールを利用していたとしか見えません。
さらにフットボールにとって不幸なことに、そういう極右的なラ・ファミリアを、イスラエルの政治家も利用しているし、ラ・ファミリアも自分たちが政治家に支持されていることを利用しています。
いわば、エゴイストしか出てこない。
声が大きくて、力があって、コワい連中が、恐怖によって事態を思い通りに動かしていく・・・スタジアムには、彼らを支持していないサポーターもいたでしょうけど、彼らがこわくて逆らえない。
それを承知で彼らは、その言動をエスカレートさせていく。

気の毒なのは、選手たちで、チェチェンから打算でつれてこられた(オーナーは彼らがどんなプレーをするのか知らないし、関心もない)二人のイスラム教徒の選手は本当に針のむしろに座っている、身の危険すら感じるであろう立場に置かれます。
ベイタルのキャプテンは、「上」から言われたとおりに、二人のチェチェン人選手の面倒を見たおかげで、ラ・ファミリアの猛攻撃を受ける・・・
あげくに、チェチェン人ストライカーが得点したことが、さらに事態を悪化させてしまう・・・
彼のゴールの後、全く目を疑う光景が展開されます。


帰りに、後ろの席の若い女性が「これ、ほんとのことなの?お話じゃないの?・・・信じられない」と言ってたのを蘇我夫が聞きましたが、信じがたいことではあるけど、本当のことが描かれていると思います。
映画では過激サポの映像が数多くありました。彼らは写されることもまったくいとわず、それどころか、映像になることがプロパガンダとなる、と考えているでしょう。
この映画のこわい部分は、見る人によっては、彼らラ・ファミリアに共感してしまうかもしれないというところ。
制作者の意図はむろんそうではないでしょう。
この映画を見て、「イスラエルってイヤな国だ」と思うのも、「うちは日本でよかった」と思うのも、まあ自由ですが、それだけでは、見た意味はないでしょう。

人間のやることは、どこにでも起こりうる。

赤サポが”JAPANESE ONLY"という弾幕を出して問題になったのはほんの少し前。
そういう排斥主義は、赤サポに限らず、どこにでも存在しうるし、その不寛容な傾向は世界的に強くなっている。
日本でも。
フットボールは、その主義主張の道具にされる恐れが、常にある、と、フットボールが好きならば余計に、自戒しなければならないでしょう。


ヨコハマ・フットボール映画祭で、フットボールのネガティブな部分が強く出された作品が上映されたことも意義がある、と思います。



それはさておき、植田朝日監督作品はどんなだったのかしら?