吉備津神社にちなんで「吉備津の釜」ふうちゃんP4版(備忘録)~怨霊のオフサイドトラップの巻。

ここまで来たら、終わらせてしまわないとね。

正太郎、亡き妻の幽霊に出くわし・・・というか、自分で会いに行ったのだけど、恐怖のあまり気絶。
これで終われば、正太郎、まだラッキーと言えるけど。

しばらくしてから、正太郎は息を吹き返した。目を細く開けて見ると、奥方の家だと思っていたのは、もともとあった荒野のお堂で、黒い仏像だけが立っていらしゃる。里の方で吠える犬の声を頼りに、家に走って帰って、彦六にこれこれしかじかと話すと、「なンや、狐にばかされたんとちゃうか。ビビっているとかえって狐狸に襲われるゆうやないか。あんたみたいビビりが気い塞がっているんやったら、神仏に祈って心を整えなはれ。刀田の里に尊い陰陽師がいてはる。身を清めて、お守り札をいただきなはれ」と、正太郎を陰陽師の許につれて行き、はじめから詳しく話して陰陽師の見立てを求めた。陰陽師は占って言うには「災いは既に迫ってきて、大変なことになっている。さきに女の命を奪ってもなお恨みは晴れず、あんたの命も今日明日に迫っている。この怨霊が世を去ったのは7日前だから、霊魂がさまようのが終わる49日まであと42日、しっかり戸締まりして、身を清め厳重な物忌みをしなさい。わしの戒めを守れば、どうにか命だけは助かるだろう。ひとときでも間違えれば、取り殺されようぞ」と、厳しく教えて、正太郎の背中から手足まで、中国古代の文字のような字を書き、さらに朱で書いたお守り札をたくさん渡して「このおまじないの言葉を戸という戸に貼って、神仏に祈りなさい。間違えて、身を滅ぼすでないぞ」と言うと、恐れながらも喜んで家に帰った。朱の守り札を門に貼り、戸に貼って、思い物忌みにこもった。


物忌みは、訳せないからそのままにした。
家にこもって、精進潔斎して、悪い霊を避けるということでしょう。
似たような展開が「耳なし芳一」にもありますね。


その夜の0時から2時頃、恐ろしい声がして「ああ、憎らしい。ここに尊いお守り札が貼ってあるじゃないの~」とつぶやいて、そのあと声はなかった。正太郎は、恐ろしさのあまり夜がとても長く感じた。しばらくして夜が明けたので、ほっとして、急いで彦六のいる部屋の方の壁をたたいて、夜の出来事を話した。彦六も、はじめはなんやそんなん、といっていたが陰陽師の言葉が不思議だがあることだと感じて、自分も夜寝ないで、0時過ぎになるのを待っていた。風がものを倒すほど強く、雨も降りだして、いかにもなんか起こりそうな夜の様子に、壁を隔てて正太郎と彦六は声を掛け合って励まし合い、さらに2時から4時頃になった。正太郎の家の窓の紙に赤い光が差して「ああ、憎らしや~。ここにも貼ってある~」と言う声が、夜更けにはものすごく恐ろしく、髪も産毛もぞわわ~っと逆立って、しばらくは気絶してしまった。夜が明ければ、夜の恐怖を語り、夜になれば夜明けを待ちわび、この月日は千年よりも長く感じた。その怨霊は毎晩家の周りをめぐり、ある晩は屋根の棟にいて叫び、その怒りの声は一晩ごとにパワーアップしてものすごく恐ろしい。そうして42日目というその夜になった。もう一晩で物忌みの日数が終わるというので、特に慎んで過ごし、4時から6時頃になり空もしらじらと明るくなってきた。正太郎は長い悪夢が冷めたような気持ちで、彦六を呼んだところ、壁に近づいて「どうや」と答えた。正太郎は「ようよう物忌みが終わったわ。にいさんの顔もえらい長いこと見てへんし、会うて、ここんとこのコワい話を思い切りしゃべって憂さ晴らしとしましょ。目えさましなはれ。わしも戸の方に出るわ」と言う。彦六は軽率な男なので、「もうなんもないやろ。さあ、こっち来なはれ」と、戸を半分も開けるか開けないかのうちに、隣の軒から「ぎゃあっ」と耳をつんざくような声がして、彦六は思わず尻餅をついた。「こ、コレは正太郎に何やあったんちがうか」と、斧をひっさげて道に飛び出すと、明けたと言った夜はまだ暗く、月は空の半ばにかかりながらぼうっと陰り、風は冷たく、そして正太郎はと見れば、戸は開け放していて、その姿は見えない。家の奥に引っ込んだかと走って入って見たが、どこにも隠れる場所があるような家ではないので、道に倒れてでもいるかと探したが、そのあたりには何もなかった。どうなってしまったのかと、怪しんだり、恐る恐る灯火を掲げてあちこちを見回ってみたりすると、開けた戸の端の壁に、生々しい血がおびただしく流れて、地面にまで伝っていた。灯火を掲げて照らして見ると、ただ男の髪の髷(まげ)だけが戸に引っかかっていて、他には何も見当たらなかった。なんともぞ~っとして恐ろしいことといったら、とても言葉につくせるものではない。世が明けて、近くの野山を探してみたが、とうとう正太郎の姿は跡形もなく、消えてしまった。彦六がこの出来事を井澤の家へ伝えたので、井澤から涙ながらに香央にも知らせた。それで、陰陽師の占いがよく当たったこと、吉備津の御釜の凶兆もまた間違いいなかったことなど、大変尊いことだと、語り伝えられたのである。




おしまい。

ここはやはり、井澤家からたんまり慰謝料をとって、きっちり別れれば良かった・・・と思うのは現代人か。
ワタクシなんぞ、正太郎を42日間よりもっと長くコワい目にあわせれやればよかったのに~と思うけど、磯良さんは律儀に魂が中空をさまよう期間だけ、正太郎にイジワルして、一緒につれて行ってしまいました。
純情な子、騙したらあかんよ。後が怖いで、というお話・・・というか、御釜のいうことを聞いていればよかったのでしょうか。