SPEAKING WITH THE ANGEL

 ニック・ホーンビイ編によるこのアンソロジーは、2001年に単行本が、2002年11月に文庫本として出版されました。日本では「乳首のイエス様」という、ニック・ホーンビイの作品が表題となっています。ちょっと困ったタイトルなので、わたしのブログでは、原題であるSPEAKING WITH THE ANGELというロン・セクススミスの歌からとったものをタイトルにしました。

ニック・ホーンビイといえば、「ぼくのプレミアライフ」という飛び切り面白い、アーセナルサポ日記があります。これを読むと昨日今日プロフットボールを見始めた、日本人であるわたしの試合のたびの一喜一憂など、ふっとんでしまうすごさがあります。
映画化された「アバウト・ア・ボーイ」など、原作は読んでいないのですが、映画はなかなか面白くみました。

この短編集は、英国で発行された時には、その定価のうち1ポンドが、ホーンビイの息子ダニーの学ぶツリーハウスのための寄付金になるというものでした。ツリーハウスとは重度の自閉症児のための学校だそうです。
ホーンビイが頼んだり、趣旨に賛同して寄稿したりされた短編集という、上梓のいきさつはユニークですが、単なる短編集として読んでも楽しいものでした。
ホーンビイの表題作は、へんてこな題のとおり変な小説ですが、実は主人公の男の奥底にある敬虔さが、期せずして表されるというもの。最後に主人公に共感させられました。
わたしの気に入った作品は、ロバート・ハリス「首相による、ある個人的な出来事に関する弁明」、メリッサ・バンク「小さな奇跡が起こる場所」など・・・俳優のコリン・ファースが、相当に面白い少年の物語を寄せています。
パトリック・バーマー「1978年のピーター・シェリー」は、小説としては、わたしにはちょっとお行儀悪すぎて、子どもっぽくて好きではないのですが、懐かしいパンクロックの名前がたくさん出てきます。
クラッシュ、セックス・ピストルズ、スージー&バンシーズ、イアン・デューリー、みんな知っているのに、バズコックスというのだけがわかりません。物語で少年少女が聴くのですが・・・
トレインスポッティング」のアーヴィン・ウォルシュは、彼らしく思い切り行儀の悪い作品で、わたしはダメ・・・。気持ち悪かった。
いろんな個性の楽しめる短編集で、その底流にホーンビイの息子に対する愛情が感じられるものです。とんでもない感じの作品も結構ありますが、原題が表すように、ホーンビイ自身は愛情深い人のように思われます。
電車の中などでは、退屈せずに読める短編集でした。