家で映画でも〜「娘・妻・母」

日本の映画監督で一番好きなのは、小津安二郎です。

どのくらい好きか、というと、何か安心した時に、

「ああよかった、あたしすっかり安心したわ。紀子さん、パン食べる?あんぱん」

と、言うくらい好き。

FC東京が2位に終わったら

 

「今が一番ええ時かもしれないよ」

などど言うくらい好き。

 

その小津が自分に撮れない映画は「浮雲」と溝口の「祇園の姉妹」だ、と言ったそうです。

浮雲」はすごいですわねえ…

ただ、ワタクシ、いい大人のくせにというか、結構長生きしてるくせに、男女の機微にはたいそう疎いものでして、小津ほどには好きではないのです。

ちなみに溝口の「祇園の姉妹」は大好き。

 

前置きがまた長い。

 

娘・妻・母

成瀬巳喜男

 

1960年の制作。東宝

 

浮雲」は55年、遺作となった「乱れ雲」は67年なので、これは多作な成瀬の晩年の作品。

 

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山の手の中流家庭を舞台に、各世代の女の姿を描いたドラマ。「新・三等重役 当るも八卦の巻の巻」の井手俊郎と、「予科練物語 紺碧の空遠く」の松山善三の共同脚本を「女が階段を上る時」の成瀬巳喜男が監督した。撮影は「羽織の大将」の安本淳。

 

東京、山の手の代々木上原あたり。坂西家はその住宅街にある。一家には、六〇歳になる母親あき(三益愛子)を中心に、会社では部長の長男勇一郎(森雅之)と妻の和子(高峰秀子)、その子の義郎、それにブドウ酒会社に勤める末娘の春子(団令子)が住んでいる。また商家に嫁に行った長女の早苗(原節子)が、夫、姑との仲がうまくいかず遊びに来ていた。早苗はこの里帰り中事故で夫に死なれ、毎月五千円の生活費を入れて実家に住みつくことになった。勇一郎は、家を抵当にした金で町工場をやっている和子の叔父(加東大介)に融資し、その利息を生活の足しにしていた。更に五十万円を申しこまれ、その金の用立てを早苗に頼んだ。彼女は承諾した。ある日、早苗、春子に、次男の礼二(宝田明)と妻の美枝(淡路恵子)らは甲府のブドウ園に遊んだ。案内は醸造技師の黒木(仲代達矢)、彼は早苗に好意以上のものを感じた。東京へ戻って、早苗は母の還暦祝の品物を買いに銀座へ出た。学友の菊に誘われて入ったフルーツパーラーで、彼女の知り合いという五条に(上原謙)紹介された。身だしなみのいい中年の紳士だった。

(解説とストーリー途中まで、映画.com、カッコ内の配役は筆者)

 

次女は草笛光子、その夫は小泉博、その母は杉村春子(登場時間は少ないけど、さすがのインパクト。怖いよう)。

登場人物がすごくて、ストーリーの途中までだと足りなかった。

 

何とも豪華なオールスターじゃないですか〜

 

成瀬の作品だとどうしても、男がダメなやつ、というイメージがあるのですが、この作品では、長男雄一郎は普通の会社勤めをしているだけマシな方です。

でも、ちゃんと…ちゃんとって変だな、やっぱりやっちまうのです。

 

タイトルがそうであるように、この映画の主人公は、あき(三益愛子)の娘である原節子

長男の妻である高峰秀子、母である三益愛子、というところですが、家族一人一人の個性がきっちり描かれていて、男どもの勝手さやダメぶりも大変よろしいです。

原節子は、ここでは、小津の作品中の「もういかなきゃいけないよ」と言われる娘ではなく、婚家でうまくいかず、戻ってきたけど、それなりに自分の生き方を模索します。

若い頃はいっそう目玉ギョロギョロの仲代達矢演じるワイン技師と、良い仲になったりする。

しかもキッパリ彼をふってしまう。

彼女の恋に嘘はなかった、と思うけど、恋によって自信も備わったかもしれない。

「わたし結婚するしか能がないんですって」と言い、自嘲的な笑みを浮かべる原節子、やっぱりきれいです。

お金に無頓着で、おおらかなところは、京都の旧家のご主人と、若いワイン技師とでは、どっちが合うのだろうか、と思うけど…

 

この家族の中で嫁であるデコちゃんも大変そうですが、見たところ三益愛子の姑はいじわるではなく、ただ、普通に昔ながらの価値観で生きています。

嫁和子もその価値観に従って生きているようですし、最後に見せたのは彼女の覚悟なのでしょう。

 

この家でも、やっぱり男どもはどいつもこいつもダメで、長男勇一郎に、画面の外から、「あんた、加東大介のやるおじさんの言うことなんか聞いたらあかんがな〜」と、訴えたけど虚しく、予想通りあかんようになって、家を手放すことに。

 

そこで家族会議が開かれ、結局老母である三益愛子を邪魔にするような発言が出ます。

老母は、杉村春子が息子夫婦への当て付けに駆け込んだ老人ホームを思い出す…

この作品の当時、養老院→老人ホームという呼び方になったところだったらしい。そして、まだ姥捨山のように取られていたらしく、嫌味多い姑にうんざりしていた次男の嫁(教職者なのにお母さんを老人ホームに入れたなんて人聞きが悪いと)も、結局頭を下げて姑をお迎えに行く羽目に。

しかし、その際「調停」に行った三益愛子には、思ったより明るくてそんなに悪くないように見えたようです。

いわゆる戦後の価値観を、特に次男以下の兄弟は持つようになり、それでいて長男には戦前からの義務を負わせるようなエゴイズムもあり、財産分けでも、まあこれはいつでもそうかもしれないけど、兄弟であれこれごちゃつきます。

その兄弟たちのエゴに怒るのは、長女の原節子だけなのですが、母親は「あんたが一番心配だよ」と言います。

「わたしが一番親不孝なの?」と聞く原節子

ここに、母と娘との深い愛情を感じます。

最後は一家がどうなるのか、はっきりしたことはわかりませんが、おそらく嫁のデコちゃんが「それが順序でしょう」というように、狭くても長男夫婦の家に行くのではないかしら?

そして、長女原節子は京都へ…

 

と、なるように思います。

 

こういうホームドラマともいえるものでした。

しかしそこは成瀬、女性は抗えない立場でも、生き方を探りながら魅力があり、男は困ったちゃんでした。タイトルからして女だけだもんね。

 

蛇足だけど、作品中にホールのイチゴショートケーキが登場します。

小津作品でも「麦秋」だったと思いますが、ショートケーキを食べる名場面があります。

どちらの作品でもケーキの値段について「高い」と言う。

どちらの作品でも原節子(のやった役)がケーキを買う。

麦秋は1951年。

1960年と9年後でもケーキはまだ高級品だったのか…

 

 

封切り当時、この映画を見た後、おばちゃんたちがカンカンガクガクになって、長男が悪いの、あんな嫁ならどうのこうの、このお宅なんかうちよりずっといいわよとか、言い合ったんだろうなあ。

今でも昼間のコーヒーショップなどでは、おばちゃんが姑や嫁の悪口に夢中だものね…(現在は密なので禁止ですが)

家で映画でも〜「笑う故郷」

アルゼンチンというと、どうしてもマラドーナ、メッシと思い浮かべてしまう。

あとは無理に思い出すと、ボルヘスコルタサルと、小説家になります。

ボルヘスコルタサルもそんなに楽に読める作品ではない。

「石蹴り遊び」も相当難渋した挙句、どんな小説だったかあまり覚えていない、という自分のアホさ加減を再認識させられてしまいます。

 

で、アルゼンチン映画です。

作品中にも「アルゼンチンが生んだヒーロー、マラドーナボルヘスにメッシ…」というセリフがあるので、まあ普通の連想ですね。

 

笑う故郷

ガストン・ドゥプラット、マリアーノ・コーン監督

2016年制作

 

2017年に岩波ホールで公開されたそうです。

岩波ホールにもずいぶん長いこと行ってない…

 

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主演のオスカル・マルティネスが、2016年・第73回ベネチア国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したコメディドラマ。故郷のアルゼンチンを離れ、30年以上スペインで暮らしていた主人公のノーベル賞作家・ダニエルが、アルゼンチンから名誉市民賞を授与されることになり、2度と戻らないと思っていた故郷へ戻ることを決めたことから、思わぬ展開に巻き込まれていく様子を、ユーモアとウィットを交えて描く。2016年・第13回ラテンビート映画祭および第29回・東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門では「名誉市民」のタイトルで上映された

(いつもすんません、映画.com)

 

解説に「コメディドラマ」とありますが、それに邦題も「笑う」とあるけど、そんなに笑えないですから。

苦笑するところはありますが。

 

冒頭からびっくりさせられるのは、日本人が受賞するとTVのニュースで散々流れるように、タキシードを着て出席することになっているらしいノーベル賞の授賞式に、主人公ダニエルがカジュアルファッションで出席する。

それだけでなく、スピーチで「この受賞は、権威に評価されたことで、私の文学の衰退だ」というようなことを述べて、会場を凍らせてしまいます。

 

 

その後、マドリードの公園か、動物園かで、何やら無謬をかこつような彼の姿…

その彼の視線の先に、鮮やかな桃色のフラミンゴの死体がある。

ここは印象的なシーンです。

 

マスコミのインタビューもほとんど断っていて、もともと偏屈な人なのだろうけど、性格だけではない、彼の行き詰まりのようなものを感じさせます。

 

そこへ、30年前飛び出したきり帰っていない故郷のサラスから、「名誉市民賞」を授与するから帰国してほしいとの連絡。

 

サラスか…ついサラス、サモラノ、東京ではササ、とアホなことをつぶやくワタクシ…(←だから誰もわからないって)

 

 

で、なぜか帰ることに。

ノーベル文学賞作家として凱旋?した故郷でしたが、故郷はそんな生優しいところではなかった。

俗人だらけの故郷で、それでも彼としてはかなり愛想良くつまらん頼み事も引き受けていました。

しかし、徐々にややこしいことになって…

 

市民の絵画コンククールの審査員にされて、真っ当な評価を下し、ちょいとした有力者の絵を落選させたら、ひどく怒りを買う。

ここは笑っちゃうほど酷い絵なのです。

元カノが学校時代の親友?と結婚していたのですが、元カノはダニエルにまだ気があるようだし、夫である友達の方は有名小説家に嫉妬しているのか、何だか嫌な雰囲気…

火に油を注ぐことになるのは、彼らの、コケティッシュできれいで頭も悪くなさそうな娘。

その存在により、ダニエルは自業自得なところもあるけど、窮地に陥ります。

 

笑うどころか、何やら恐ろしげな展開に。

 

最後に、わたしのようなな〜んも考えずに見ていた素直な鑑賞者を「あれま、なあんだ」という仕掛けもあり、なかなか意地悪かつ一筋縄ではいかない作品でした。

 

ダニエルもこんな人、身近にいたら嫌だろうな、というところがあり、町民にしたら、「ケッ、いけすかねえ野郎だ」と思ったのでしょう。

 

ただ、しかし、小説家というのは、映画監督でもそうだけど、他者にとっては、本人より作品が「彼そのもの」であるとも言えます。

その点、ダニエルと、ホテルのフロントの青年とだけは、もしかしたら、通い合うものがあったかもしれません。若い彼はダニエルを同じ故郷の人というより、小説家として見ていました。

町の人はダニエルに何を望んでいたのか、何か「いいもの」をもたらすことを期待していたのに、偏屈な一人のオヤジが来ただけだったので、がっかりしたのでしょうか。やはり故郷ってメンドクサイところがある。ちなみに、わたしには故郷がないので気楽ではあります。

 

 

 

 

家で映画でも〜「天使の入江」

Jリーグの再開が決まった〜

J1は7月4日、J2は6月27日だというので、

夫が「何かい?J1は7月4日って1週間も違うのかい?J2は準備が足りなくてもいいってのかい?」と、僻んでいますが…

確かに、移動という点では、J2、J3の方が大変だと思うんだけど。

 

と、言ってもまだまだワタクシどもは自重してですね、家でなるべく大人しくするわけです。

 

 

 

天使の入江

ジャック・ドゥミ監督

1963年制作

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シェルブールの雨傘」などで知られる名匠ジャック・ドゥミの長編第2作。南仏ニースの美しいリゾート地を舞台に、ギャンブルに魅入られた男女の運命を描く。パリの銀行で働くジャンは、同僚に連れられて訪れたカジノで大当たりする。すっかりギャンブルの魅力に取りつかれた彼はニースの安ホテルに居を移し、カジノ通いの毎日を送るように。そんなある日、カジノで出会ったブロンド美女ジャッキーと意気投合したジャンは、彼女とパートナーを組んでますますギャンブルにのめり込んでいくが……。ジャッキー役に「死刑台のエレベーター」のジャンヌ・モロー。日本では2017年の特集上映「ドゥミとヴァルダ、幸福(しあわせ)についての5つの物語」で劇場正式初公開。

(毎度すんません、映画.comの解説です)

 

クロード・マン演じる真面目な銀行員だった青年ジャンは、悪友の誘いで、ちょいとギャンブルをやって小金を儲ける(ビギナーズラックそのもの)と、時計屋をやっている謹厳実直な父親からあっという間に勘当されてしまい、今だもっと本場へ行こうとニースへ行く。

ニースの「天使の入江」という名前の浜辺で、素晴らしいブロンドの美女ジャッキーに出会う。

このジャッキーがどう見たって重症のギャンブル依存症で、彼女に引っ張られるようにジャンもギャンブルにのめり込み、果てはすってんてんに。

 

シェルブールの雨傘」の前年の作品です。

「シャルブールの雨傘」を見たのも随分昔のことなので、よく覚えていないけど、ワタクシ、このジャック・ドゥミという監督とはあまり相性がよろしくないようです。

一番新しい記憶が「ベルサイユのばら」で、ジャック・ドゥミさん、やっちまったな〜という印象だったのですが、まあそれは大人の事情もあるのかもしれないし、おいといて。

 

わたしの大好きなジャンヌ・モローがこの作品では、美人だけど、あまり良さが出ていないような気がする。

57年の「死刑台のエレベーター」62年の「突然炎のごとく」はもっときれいだった。

さらに後年の66年「マドモワゼル」だってああいう役だけど魅力的だったし、さらに老年に達した「夢の涯までも」だってとても美しかった。

 

それでもこの作品でも、大枚を稼いでカルダンのドレスで着飾った時以上に、スってしまって無一文になったときの開き直ったようなふてぶてしさはとてもステキ。

 

青年ジャンは、それまで真面目に勤めていただけに、ギャンブルにもジャッキーにも夢中になってしまって、ジャッキーが他の男と親しくすると、激しく怒るのだけど、アンタ何様よ?みたいなジャッキーの態度。わたしもジャンに、坊や、彼女が自分のモンだと思うのは10年早いよ、と言いたくなります。

どうも彼女はギャンブルさえできればいいようで、ジャンが彼女に夢中なのにちょっとはほだされたかもしれないけど、愛しているのかは怪しいと思う。

 

ジャンを演じるクロード・マンはなかなかのイケメンですが、他の出演作品はあまり知らないなあ、と思ったら「影の軍隊」に出ていたそう。

割と最近TVで観たのだけど、このジャン=ピエール・メルヴィルの作品は好きです。

 

さて、二人の関係が恋人同士だとしたら、ハッピーエンドのような終わり方でしたが、ワタクシのような意地悪オバから見ると、そうはうまく行くまい、と思ってしまう。

きっとまた有り金全部使っちゃうんじゃないかな、そのお金がどれほど大事なお金か、言わないけど。

 

ここまで書いて思ったけど、もしジャッキーがわたしが見たような女だとしたら、ものすごく自分勝手じゃないの。ただ、どうしようもない重症の依存症だから気の毒なのだけど、その自分勝手さはよく描けていたように感じます。

それが監督の意図するところかは、わからないけど。

 

 

 

家で映画でも〜「わたしは、ダニエル・ブレイク」

10万円の特別給付金を巡って、何やらあちこちで混乱が起きているとか。

マイナンバーカードを作ろうとする人、持っているけど暗証番号を忘れた人、なんだかんだで郵送の手続きにしておくれ、と役所が言ったら、その書類の「給付金を希望しません」にチェックを入れてしまい、後で取り消す人が続出とか、話題にこと欠きません。

うちは縄文人弥生人でも江戸人でもいいけど)のため、夫婦で運転免許を持っていないのと、なぜかパスポートは日本のお役所ではあまり信用してもらえないのとで、早くからマイナンバーカードを作り、暗証番号は何と市役所が控の紙をくれたのでそれに記して持っていました。なので、いち早く10万円x2ゲット。

Jリーグが始まったら使ってやるう〜(おバカ)。

 

それはともかく。

お役所の手続きが煩雑なのは、日本だけではないようで。

 

わたしは、ダニエル・ブレイク

ケン・ローチ監督

2016年制作

 

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2016年・第69回カンヌ国際映画祭で、「麦の穂をゆらす風」に続く2度目の最高賞パルムドールを受賞した、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品。イギリスの複雑な制度に振り回され、貧困という現実に直面しながらも助け合って生きる人びとの姿が描かれる。イギリス北東部ニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイク(デイブ・ジョーンズ)。心臓に病を患ったダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができないでいた。シングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって追い詰められていく。

(いつものことですが映画.comの解説)

 

ケン・ローチ監督の作品は、どういうわけか縁がなくて、ほとんど見ていませんでした。

夫は飛行機の中で「エリックを探して」という、本物のカントナが出演する!作品を見て、なかなか面白かったそうです。

特に理由はなく、何だかずっと見逃していたのですが、この作品を見ると。

 

今までモッタイナイことをした。

わたしはこの監督と相性が良いと思う。

 

彼は非常に真っ直ぐ。

何のてらいもない。

ただ、真面目に怒っている。

 

…冒頭、画面はまだタイトルバックを映しながら、お役所の女性の声と、イラついた主人公ダニエル・ブレイクの声のやりとりから始まる。

ニューカッスルに住むダニエル・ブレイクは、長年大工をしていて腕に自信もあるのだけど、心臓を患い、医者に仕事を止められ、国からの援助金を受けようと福祉課に行く。すると、手続きが煩瑣で、わかりにくく、一般市民には理由のわからない順序や決まりがある上、必要な情報はインターネットのHPにあると言われる。

彼はPCなんかやったことがない…

うちのオジジよりは早くマウスを使えるようになったけど、それはそれは悪戦苦闘していました。(ちなみにオジジはついに使えないまま)

毎日憂鬱なお役所通いの中で、二人の子持ちのシングルマザー、ケイティに出会う。

彼女もロンドンからニューカッスルに出てきたばかりで、右も左もわからないのに、役所で邪険にされていたところを、ダニエルが声をかけて、助け合う仲になる。

彼女の陥った貧困の描写は、痛いほどリアルで、いかに空腹だったか、いかに惨めだったかが、鋭く伝わってきます。

ダニエルとケイティは家族のように助け合いながら、また、ケイティが貧しさに倦んで売春をするのを止めようとして喧嘩になりながらも、最後まで支え合っていきます。

その友情の温かさがこの作品に奥行きを与えていると思います。

 

しかし、行政の人間あくまでも制度の奴隷となっていて、ダニエルやケイティを一人の誇りを持った人間としては見てくれない。

彼らとて、仕事が終われば、家に帰れば一人の感情を持った人間のはずですが、いざ仕事となると、課せられた任務の遂行だけが優先されます。

ダニエルの怒りはついに爆発。

真面目に働き、税金もきっちり収め、病気の妻の介護まで一人でして生きてきたダニエル・ブレイクの、人としての誇りが、彼に怒りの行動を取らせます。

 

ハッピーエンドではないのですが、表情に張りのあるケイティに少しの希望が見出せるところで終わります。

こりゃあ、ヨッチも苦労してるだろうと(←ほら、またわかりにくい)思われるニューカッスル方言、ジョーディとか言うらしいけど、そういうあまり上品な言葉使いではないダニエル・ブレイクですが、一人の人間としての尊厳は十分に表した姿だったと思います。

 

彼らの日常の描写とか、福祉職の人でもそれぞれの立場の違いとか、細かい表現もよく描けています。

この人もシドニー・ルメットと同じく、50年間ブレずに問題を描き続けてきた監督ですが、ルメットよりも真っ直ぐで、純粋な怒りが見えるように感じます。

そして、期せずして今のこの時期に大変マッチした内容の作品となりました。

 

きっとこういう役所関係の手続きで、イラついている人が今はとても多いでしょう。

自分の方が準備が足りず、窓口で怒鳴り散らして顰蹙を買うオジジなどもいるそうですし、お役所も気の毒なところはあります。

でも、何しろ窓口の係りの人にとっては毎日やっている常識でも、初めて行く市民にはわからないことだという認識は持って欲しいものです。

 

 

 

東京都農林総合研究センターのいろんな花。

うちの近くに東京都農林総合研究センターがあって、本当に良かった。

散歩するのにちょうどよく、人は少ないし、花は次々に咲いてきれいだし、ステイホーム期間中でもストレスなく、人に迷惑をかけずに歩けました。

緊急事態宣言が解除されて、昭和記念公園も神代植物園も来週には開園するそうです。

きっと待ってました〜と大勢来ると思うので、しばらくは様子を見てから出かけます。

こんな状況の中、お天気の良い日には農林総合研究センターへ行って、のんびり散歩できました。

職員はどこから来られるのか、毎日開けてくださってありがたいことでした。

 

で、今日の花は。

 

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栴檀が満開。

 

栴檀は双葉より芳し、の栴檀は白檀のことでこれではないらしい。

おうち、といえば「枕草子」にも出ていますね。

 

 

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赤いカルミラ。

 

 

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ナツロウバイ、だそうです。

 

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左はプルヌス・シルタニカ、右はツルマサキ、シルバークイーン。

 

名前、覚えられない〜

 

 

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タイサンボクの花。

タイサンボクにもいろんな名前があるの、このセンターで知りました。

が、これが何かは忘れた…

と、とにかくタイサンボクです。

 

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ヤマアジサイ、七段花。

 

紫陽花が色づき始めています。

七段花、ってこの種類の名前なんだろうなあ…三段腹なら知ってるけど。

 

 

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シモツケ、ネオンフラッシュ。

 

庭木の種類なので、いろんな名前がつけられているのでしょうね。

シモツケもあちこちで咲いています。

 

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ユスラウメの実と、カラタネオガタマ パープルクイーン。

 

カラタネオガタマという木もこのセンターで知りました。

クイーンってつけるのが好きだな、園芸関係の人…クイーンファンかな?

この紫のカラタネオガタマもバナナのような香りがします。嗅いでみないと気が済まない。

 

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これなあに?

 

あまりきれいではないけど…不思議な感じの花です。

 

表示がないとほとんど名前がわからない。

 

植物園とは違って、ただ花を鑑賞するのではなく、東京都の緑化とか、公園に植える木とか、新しい庭木の提案とかをする場所なので、敷地面積の割には多くの種類の植物がありますが、特別に演出されているわけではありません。

でもいつもどんな花が咲いているか、楽しみです。

 

昭和記念公園が開いても、まだしばらくお世話になります〜

 

 

家で映画でも〜「ホワイト・バレット」

「こんな時は家で映画でも見ましょう」

が、タイトルだったのですが、だんだん略してきて「家で映画でも」って、ちょっと趣旨とズレてきましたが、まあいいや。

緊急事態宣言も一応解除されたし…と言っても、新型コロナウィルスがいなくなったわけでなし、世界を見ればブラジルなど1日に2万人以上の感染者が出たとか…

気をつけるに越したことはなく、うちのように存在自体「不要不急」のヤカラは、おとなし〜く過ごすことにします。

 

自宅待機のうちに宿題が溜まってしまった小学生みたいに、レヴューが全然間に合わなくて…

10本も待機中ですわ…

 

なんかもう忘れつつあるけど、とにかく。

 

ホワイト・バレット

ジョニー・トー監督

2016年香港・中国制作

 

「ザ・ミッション 非情の掟」「エグザイル 絆」などで、香港ノワールの巨匠と称されるジョニー・トー監督のサスペンスアクション。警察との銃撃戦により頭に銃弾を受けた強盗団一味のチョンが救急病院に搬送された。病院の女医師トンは、至急手術をしようとするが、チョンは人権を主張し、断固として手術を拒否していた。チョンから一味の情報を聞き出そうとするチャン警部は、強盗団の電話番号を聞き出すことに成功したかのように思えたが、それはチャンが仲間に連絡を取るためのワナで、チョンの奪還を狙う強盗団の魔の手が病院へと迫っていた。チャン警部役にトー監督作10本目の出演となるルイス・クー。女医師トン役に「So Young 過ぎ去りし青春に捧ぐ」で監督としての才能も評価されたビッキー・チャオ、チョン役をウォレス・チョンがそれぞれ演じる

(映画.com解説を借りました)

 

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原題は「Three 三人行」

という通り、外科医トン、チャン警部、強盗犯チョンの3人が絡むお話です。

その3人と、外科病棟の患者精神科から転院してきたおかしな親父と、トンの手術が気に入らなくてリハビリもしないで怒鳴ってばかりいる若い患者などのエピソードが入ります。

 

女の脳外科医と言うと

「わたし、失敗しないので」

みたいなスーパーな人かと思うと、さにあらず。

 

トンはストレスに苦しみ、失敗もするし、また、チャン警部も勇ましいけどちょいと頭のいい強盗犯チョンに振り回されるし、そのチョンは脳に弾丸が入った状態で入院、目端が効いて悪賢いけど、結局一番必要なことをしないで自ら深刻な症状に陥るし、誰もスーパーな人は出てきません。

 

トン医師は早く手術をしてチョンの命を救うことを第一に考えるのですが、途中わかりにくい行動もとります。

チョンはベッドに寝ているくせに、トン医師を利用し警察を欺き、さらには隣のベッドの精神科からきた親父を巧妙に利用します。

この親父が面白いキャラで、どんな修羅場、銃撃戦の中でもお構いなしにご飯をかっこむ。

拘禁ベルトから抜け出て、散々悪戯をして、これが大混乱をもたらすことになるのに、誰も気がつかない。

もう一方の隣のベッドでは、トン医師の手術のおかげで麻痺が残った、恨んでやるの殺してやるのと大騒ぎする若い男がいて、こいつも大銃撃戦の最中に、車椅子から落ちて、なんと歩けることがわかるという、いかにもいそうなヤツ。

 

その脇役の二人は面白いのですが、メインのストーリーはイマイチな感じです。

トン医師もチャン警部も迷いのある普通の人と見れば良いのかも。

しかし、銃撃戦のあたりでは、二人ともさすがはジョニー・トー、というすごい働きをします。

ジョニー・トー監督のお約束という、銃撃戦はスーパースローモーションで、感傷的な香港ポップスが流れる中、患者が、警察官が、看護師が、医療器具が、食事が、なんだかんだが舞い踊る。

ここで死んでいてもおかしくなかったチョンは、結局トン医師により脳の手術を受けます。

ストレスに悩んでいたトン医師はこの大騒ぎによって、開き直ったのか、すっかりさっぱりした表情になります。

 

見ている方はそこまでスッキリしないのだけど、見せ場である銃撃戦と誰をどうしようか分からないような救出劇は、結構面白く見ました。

 

 

 

こんな時には家で映画でも〜「噂の女」

今日は大好きな監督だけど、未見だった作品を。

 

噂の女

溝口健二監督

1954年制作

 

以下、KADOKAWAのHPからコピへしました。

 

 

INTRODUCTION

華やかな花魁姿の太夫たちの中で、モダンな久我美子の魅力がひときわ目立つ!また、監督との名コンビで知られる田中絹代が、娘に恋人をとられる母親・初子を好演、これが溝口組での最後の仕事となった。

出演・大谷友右衛門進藤英太郎ほか。脚本・依田義賢、成沢昌茂、撮影・宮川一夫、美術・水谷浩、音楽・黛敏郎



京都の色街・島原で置屋を女手一つで切り盛りしている初子。東京の音楽学校に通い婚約直前であった娘、雪子が自殺を図り、家へ戻ってくる。

初子は年下の医者で思いを寄せている的場に娘を診せる。

傷心の雪子であったが、いつしか親密となった的場に、母親の仕事のために自分の婚約が破棄されて自殺に及んだことを打ち明ける・・・。

CAST

STAFF

 

 

 

 

 

 

 

 

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写真を見ても分かる通り、花魁の衣装と、久我美子のウェストをマークした姿の良いワンピース姿とが、何ともすごい絵に…(ヘップバーンという指摘がいくつかの評にありましたが、意識しているようですね)。

京都島原の遊郭が舞台で、さすがは溝口、さすがは当時の大映、セットが素晴らしく、遊郭暮らしがどんなものか、よく伝わってきます。

田中絹代置屋の女将、その娘雪子が久我美子

田中絹代とデキているというのか、ツバメみたいな立場の、主治医が大谷友右衛門

病気の遊女や遊女と客のエピソードなども織り込まれ、溝口らしい白粉の匂い立つような雰囲気があります。

ただ、雪子のところだけは、彼女が自分の家の商売を憎んでいることもあり、東京で暮らし、恋もしてきたこともあって、違った雰囲気…言葉遣いも標準語。実家に帰ると、実家の言葉遣いになるのが普通なのに、小津の「東京物語」の子どもたちと同じように(杉村春子は下町言葉、山村聡は標準語、大坂志郎大阪弁)、雪子も京都言葉は使わない。

帰宅した頃はしょんぼりしながら意固地になっていた雪子ですが、それなりに話ができるのが主治医だけだったので、次第に親しくなって行きます。

まあ並べてみれば、女将と彼より、雪子と彼の方が似合う…年の頃を見ると。

初子は本当に本気で、彼のために大枚叩いて郊外に診療所にする家を見つけ、犠牲を払おうとするのだけど、この男、いい加減なやつで、テキトーに女将を利用しつつ、お嬢ちゃんと東京へ行く魂胆。

この母娘、男を見る目がないところは似たようです。

 

久我美子の美しさは印象的ですが、後半に行くにつれて、田中絹代の演技の凄さが際立ってきます。

特に、上客を連れての能鑑賞で、そのロビーで愛を語る雪子と主治医との話を聞いてしまった田中絹代と、その後の狂言「枕物狂い」とのオーバーラップが凄まじい。

狂言では老人が恋をしたことを恥じて狂乱する姿が演じられ、それを見る初子の表情…

そして、彼女も「物狂い」の姿になって行きます。

 

大谷友右衛門のチャラい男もなかなかのもの。

素晴らしいセットの遊郭のある道を去っていくソイツの後ろ姿に、ついバーカバーカ、と言いたくなるほどの演技でした。

 

そして、蛙の子は蛙なんだろうか、帳台で生き生きと仕事する久我美子で終わりますが、一方、病気で亡くなった遊女の妹が、やっぱりここで働かせてください、とやってきます。

「あたしたちのような女はいつまで経ってもなくならないのかねえ」というようなことを言いながら、花魁たちが宴席に出ていくところは、「赤線地帯」も思い出させます。花魁たちの描き方は手練れというものでしょう。

 

 

というわけで、大変面白く見たのでした。