字幕屋は銀幕の片隅で・・・

・・・日本語が変だと叫ぶ」というタイトル、太田直子著。
日本語も変かもしれないけど、まずこの本のタイトルが変です。
ナントカの真ん中でナントカと叫ぶ風のタイトルが、一時流行ったのでそれにあやかろうとしたか。
編集者の魂胆か、著者のセンスか。
「ナントカ屋はどうしてナントカか」とか、最近の題名は気に入らないのです。

しかし、この字幕屋太田さんの言っていることは、至極まっとうでした。

どの言語であってもわたしなぞ字幕なしでは到底理解できません。
映画を観るのに、実に頼りになるものです。
それだけにヘンな字幕をつけられては困りますが、わたしの貧困な語学力では変かどうかがわかりません。
字幕で困った経験は、以前アジアのあるところでタルコフスキーノスタルジア」を見たとき。
映画の音声はイタリア語、字幕はフランス語、イヤホンで英語同時通訳という状況。
しばらく激しく戸惑いましたが、そのうち慣れるというか諦めるというか・・・
自分の脳がそれぞれの言語の良いとこ取りをしていることに、自分でびっくりしました。
貧困ながらも英語が少しはわかるのですが、同時通訳の英語が一番映像には似合わないのです。
で、頭で意味を英語から把握しつつ、ほとんどわからないイタリア語でニュアンスをつかみ、
フランス語字幕のなんとかわかる部分・・・地名など・・・で補う。
後年日本語字幕で見たら、自分の理解が間違っていなかったのでちょっと嬉しかったものです。
ソラリス」などすでに見ていて、彼の手法を知っていたからこのような言語環境でも理解できたのでしょう。

初めから話が逸れた。
字幕屋は何でも屋でなくてはならず、そのつどまさに泥縄式に知識を得るのだそうです。
彼女は、フットボールオンチでイングランドの「プレミアリーグ」を「英国リーグ」と訳してクレームが来たそうです。
当然ですね。
彼女はサッカー好きの友人に聞きまくり、それで得た知識は「プレミアリーグはその国の最上位リーグを指すもので、イングランドとは限らない。日本のJリーグも英語なら『ジャパニーズ・プレミアリーグ』なのだとか」というもの。
だから結局どうしたらよかったのか?とぼやいていますが、ここらへんが泥縄式の苦しいところ。
太田さんには、Jリーグの場合は英訳する時は別にして、国内ではJ1、J2と言う言い方があると教えてあげたいものです。
少なくとも日本人が見る映画の字幕なら、イングランドプレミアリーグはそのまま「プレミアリーグ」で良いわけです。
リーガエスパニョーラセリエAブンデスリーガそのままで分かりますね。


著者がサッカー用語で苦労した映画は「ライフ・イズ・ミラクル」
旧ユーゴの内戦を舞台にした・・・クストリッツァ監督作品だそうです。
ああ、見てない・・・彼の「アンダーグラウンド」はあきれるほど面白かった。
なんと見てないとは・・・どうしても見たい。
一読者をしてそう思わしめただけで、この本は成功したのではないでしょうか。