テオ・アンゲロプロス監督逝く

思いがけない訃報が届きました。
ギリシャの映画監督テオ・アンゲロプロスが、撮影中にバイクにはねられて亡くなったと・・・・
76歳という年齢は、先日亡くなった森田芳光監督よりはずっと年上ですが、新作の撮影中だったとは・・・残念です。
彼の作品で最初に見たのは「旅芸人の記録」でした。
岩波ホールだったかしら?
上映時間240分という長大な作品ですが、おしりが痛くなっても見る価値はじゅうぶんにあるものです。1939年から1952年までのギリシャギリシャ悲劇に擬えながら、作る方と見る方どっちが先に息切れする?と言わんばかりの長回しで描いています。
今、ギリシャの経済破綻がユーロ全体に及んで世界的な不安要素になっていますが、「旅芸人の記録」などを見ると、ギリシャの近代史がいかに困難なものだったかわかります。
ただ映画はそれ以上に、映画そのもののすばらしさとアンゲロプロスを生んだギリシャのすばらしさも表しているのですが。
 
彼の作品はどれも映像が美しいのですが、わたしは「永遠と一日」がとても好きです。
「蜂の旅人」という身勝手なオッサンがたいそうきれいな景色の中を、フラフラ旅する作品なども経て、「永遠と一日」は息を飲むほど美しい映像で、一言で言えば悲痛な物語が描かれています。様々に悲痛な物語が絡まってできたとても愛おしい作品です。
黄色いレインコートの雨ににじんだ色とか、彼の作品によく出てくる黒い土と白い雪とか、何人もの電信柱の工事人とか、ギリシャと言っても寒そうな冷たそうな映像が多い中(それもすばらしい映像で大好きです)、「永遠と一日」では思い切り明るくてきれいな海を背景に風になびく白い服が印象的でした。それがただきれいな眺めなのではなく、死の影が迫った詩人の悲痛な思い出として描かれていました。
 
そして、新作はどんなものだったのでしょう。
なんと交通事故だなんて・・・
ヴィスコンティも「ルートヴィッヒ」制作中に亡くなりましたが、彼も69歳だったのか~今調べて、改めてびっくり。
わたしはヴィスコンティの大ファンではないのですが(「ヴェニスに死す」は好きですし、若い頃の作品は改めて見ると面白かった)、彼の場合「ルートヴィヒ」で終わって完結した感じはします。
アンゲロプロスも「永遠と一日」は遺書のような作品ではありますが、98年の作品ですし、その後「エレニの旅」なども撮っていますから、まだまだ何か生み出してくれるものと思っていました。
 
それでも撮影中に生涯を終わるとは、映画人としては悪くないのかもしれません。
 
さようなら、アンゲロプロス監督。