妻として女として、と、ジェット・リー

最近映画館で観た映画といえば、「ホット・ファズ」という、イギリスのお笑い警察もの。
バカバカしくて、ヘンな映画でした。随所にイギリスらしい意地の悪さが見えていました。

今日書こうとしているのは、それではなく、最近TVで見たもの2本、とてもヘンな取り合わせですが・・・

ひとつは、このところ連続して放映されている成瀬巳喜男作品のひとつ
「妻として女として」
1961年作、成瀬としては、あまり良い出来とは評価されていないものでしょう。
しかし、あらためて作品リストを見ると、89編もの中に駄作が少ないことに感心します。
この作品も傑作といわれている諸作品に比べれば、あまり充実していないけれど、
今見ると結構楽しめました。
森雅之(夫・大学教授)が、成瀬映画のある典型的なタイプを演じていて、このどうしようもなさ、
「ズルズル」という形容がぴったりの男女関係、ステレオタイプといえなくもないけど、
やはり、面白い。
15年も愛人(高峰秀子)との関係を続けていて、妻(淡島千影)もそれを知っているどころか、
愛人の生んだ子2人を自分の子として育てている。
その辺の事情はちょっとご都合主義なのだけど、まあそんなことはどうでもよく、
ただそのどうしようもない関係を描いた作品と、見れば良いでしょう。
夫のしょうがなさは、すでに愛人とこっそり旅行に出かけた先で、教え子の学生にばったり行き会って、
すっかり意気阻喪するというシーンによく表れています。
わたしが愛人なら怒って帰っちゃうでしょうが、そこは昭和の愛人なのか、「しょうがない人ねえ!お風呂入りましょ」と、図太さを発揮。最後に失望感に浸るシーンの伏線になっています。

終わりの方で三つ巴で立ちっぱなしで言い争う場面があり、そこでも夫はダメ男ぶりを最大限に発揮。
言い争うのは女二人で、彼はほとんどぼ~っと立ち尽くすだけ。
「なにか言って下さいよ」とか言われても、「僕には何も言う権利がないよ」などと逃げの一手。
この最低な男が面白いところです。
特にこの作品での妻は、あまり面白くなく、愛人の店の儲けから毎月お金を受け取っているというところも、よくわかりません。この人が一番図太いといえばそうなのでしょう。

この作品もずるずるした関係がどうしようもなく続く、という成瀬映画のある典型でした。
愛人はそれを断ち切るのですが、川島雄三作品の女性のような力強さはありません。

もう一つは、徐克作品「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」
このところNHKBSで3作放映されました。
わたしは3作とそれ以降のジェット・リー主演でないものも、香港で見たので、広東語で英語字幕。
英語も広東語も得意ではないので、細部はわからないところもありました。

ちなみに、香港で映画を見て一番苦労したのは、タルコフスキーノスタルジア」です。イタリア語のフランス語字幕、英語同時通訳という、どの言語も得意ではない者には、とても大変でした。ただ、タルコフスキー作品のほとんどを見ていたので、想像力を駆使し、後で日本語字幕で見たら、自分の「察知力」を自賛したものでした。

さて、今回は日本語字幕で3作目の「天地争覇」を見ました。その前の2作の方が面白いので録画はしてありますが、まだ見ていません。
ジェット・リー、李連杰は、この3作に尽きると思います。
「天地争覇」は、獅子舞の群舞、戦いのシーンが美しく楽しいのですが、話としてはやや退屈。
ワル側の巨大獅子が、まつげをぱちぱちさせながら出てくるところなど、笑えます。
カンフーシーンとしても前2作の方が良くできています。
竹組みの中でのカンフーシーンなど、どちらにあったか忘れたけど、見ごたえがあります。
このシリーズは、中国ではというか、大陸の事情は良く知らないので、香港では、
大変尊敬され愛されている黄飛鴻というカンフー、医術家の物語で、
清朝衰退期が時代背景になっていて、中国近代史として見ても、面白いものです。
日露戦争近く、日本も影の悪役として認識されています。
娯楽映画ですから、香港映画らしいサービス精神も旺盛で、とぼけた笑えるシーンもところどころ。
でも、なんといっても見ものは、李連杰の美しいカンフーにあります。
彼の初期作少林寺(だったかな?)も、楽しい作品です。
ブルース・リーよりもジャッキー・チェンよりも彼が好きです。
わたしには実際の知識はありませんが、彼は正統的な少林寺拳法の上手という印象で、
キメポーズなどが、大変きれいです。
そして、クリリンみたいな頭のかたちもかわいい。

最近香港映画は衰退気味らしいですが、がんばってほしいと思います。
ちなみに、わたしが見た映画の中でもっともばかばかしい周星馳も好きです。