「パラサイト」〜ニオイのイメージ〜

ニオイ、漢字で書くと「匂い」は良い香り、「臭い」は嫌なニオイを思わせる。

 

映画「パラサイト」ー半地下の家族ーを見ました。

 

見たのは先週のことで、アカデミー賞の候補に挙がっていることも知らなかったのです、あたしゃアカデミー賞にはほとんど興味なく、オスカーを獲ったから見たわけじゃないのです、と、ムキになることもないか。

 

カンヌ映画祭にはちょっと興味あるのですが。

それより何よりなんか面白そうだし、ポン・ジュノならば結構エグく見応えありそう、と思って。

 

で、面白うございました。

 

映画の画面からニオイが出てこなくてよかった。

わたくしニオイに弱くて、電車で隣に焼肉でお酒飲んだオヤジがいるだけで、気持ち悪くなるのです(むろん、勝手ながら自分がニンニク臭いぶんには平気)。

 

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パラサイト

 

そういう生々しい、生理的な表現も含めて、この作品、やはりタダモノではありません。

映画のポスターにもなっているこの写真は、えらくきれいな室内で撮られています。ここが舞台の一つであり、もう一つの舞台は、ビンボーな一家の住む半地下の部屋。

豪邸に住むイケメンIT企業社長と、美人の妻と、可愛い女子高生と感覚鋭い少年の4人家族。

そして、半地下の部屋に住む、ソン・ガンホ演じる失業中のキム・ギテク親父と、スポーツ選手(ハンマー投げ。スゴ。)として活躍したけど今は太ってしまったど迫力オモニと、大学受験に散々失敗し続ける長男に画学生崩れの長女の同じく4人家族。

そして、このお話には、もう1組、半地下よりさらに深いところに生息する夫婦がいる。

いわば3組の家族の話です。

そこには、ちょいワルはいても、本当の悪人は1人も出てこない。

 

既にアカデミー賞を受賞したので、あちこちで言われていますが、この作品は単に「格差社会を描いた」というだけでは、ちょっと足りないような気がします。

良い映画にあるべき普遍性と強い個性を持ったこの作品は、細部に亘って語り尽くせない凝った仕掛け(息子ギウの友人が置いて行った大石とか)があり、そういう隅っこをつついてもおもしろいし、そして、大きく見れば、何より「家族愛」というテーマがあると思われます。

この作品に登場する3家族とも、みんなそれなりに愛し合っている。

特にギテクさんの息子ギウは、頼りない父親なのに常に敬意を持って接している(ここが韓国的なのかどうかはわたしにはわかりません、それほど韓国の家庭事情しらないから)し、お話の最後には、父親への深い愛情が表現されます。

ハイソ4人家族も、ちょっとエキセントリックな息子を溺愛している。シャッチョさんも妻を愛して…この奥さんなら家事も何もできなくても(しなくていいんだけど)、可愛いだろうなあ…

そして、半地下以下の夫婦も、それは強い絆で結ばれている。

キム・ギテクさんも半地下以下の旦那も、同じ台湾のお菓子で借金こしらえたあたりの、会話の中にも笑える要素満載。

 

そして、2人のオバチャンのど迫力。

特に半地下以下のオバチャンとソン・ガンホは「ポン・ジュノ組」とも言うべき俳優で、すごい演技でこの映画を支えています。

 

終盤のカタストロフは、さすがに血生臭く、半地下以下のオヤジが怖いこと怖いこと。

 

しかし、キム・ギテクも、その半地下以下のオヤジと同様に怒りを爆発させるのですが、そのスイッチを入れたのは、ニオイなのでした。

IT企業社長の、ニオイに対する反応が、ギテクにも半地下以下のオヤジと同様の怒りを起こさせたのでした。

 

「ニオイ」がこの作品の重要な要素であると思われます。

そして、ニオイの記憶は、社長の息子にしっかり残ったに違いありません。

この子は、実は鋭いところがあり、大人が思うよりももっとこの事件というか事態というかを分かっていたようです。

ここがまた面白い。

実は社長の娘はわたしには印象が薄かったので、始めに投稿した文では忘れていたのですが、最後にこの子が、キム・ギウを助けたシーンは、印象に残りました。

 

大惨事の後にしてはあっけらかんとしたエンディングなのですが、最後に息子キム・ギウが想像する実に楽天的な将来も、なんだか実現可能かも、と思わせるのが、もしかしたら韓国映画の力なのかもしれません。

しかし、この映画に続編を作るなら、ギウの計画の前に、社長の一人息子が立ちはだかる役を演じるだろうと思われます。

その時、仮にギウの仕事がうまくいって、良い服を着ていたとして、どうかしら、社長の息子は、彼のニオイに気がつくでしょうか。

そのニオイはビンボー(半地下のニオイ。だから、半地下以下だとも〜っと臭い)のニオイだとしたら、もうしなくなるのでしょうか。

 

などと、次々に映画は終わったのに、先のことまで想像してしまいました。

 

長くなったけど、ポン・ジュノ監督自身が「格差社会」について語る中で言及していた映画「バーニング」も、去年見ました。

 

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バーニング

 

イ・チャンドン監督、村上春樹の「納屋を焼く」からインスパイアされたものだそうです。わたしはTV版は見ていません。

こちらは、もう少しミステリアスなお話。

古いけどルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」を思い出させるところもある。

お金持ちでイケメンで教養ありげで、そして退屈そうな男に、問題ばかり起こす父親のボロ屋に住むビンボー学生が好きな彼女を奪われる…

怒りが最後に大爆発するところは、「パラサイト」と同じですが、こっちのハイソ男は見るからに怪しげで、そうだやっちまえ、とわたしも思ってしまいました。

燃やしているんだから、燃やされるだろうと、まあ想像できないでもなかった…

こちらも面白い作品でした。

 

格差社会というのも、新しいテーマというよりは、映画でも昔からあったことで、例えば小津の「大人の見る絵本 生まれてはみたけれど」1932年なども…これは同じ会社の上下関係だから正確には違うか…

それでも、おそらく韓国や日本のように、ある程度国力があって安定した社会のように見えても、むしろそこに格差が広がっているという問題なのでしょう。

 

そう簡単に解決できそうもないように思うけど…

 

難しいので、それは置いて、ともかく大いに普遍性があって、何がどうなったか色々アチラの事情もあったかもしれず、「パラサイト」が、オスカーを獲得したのでした。