家で映画でも〜「ブロークン・フラワーズ」
ヴェルディと言ってもあの緑ではなく、イタリアのオペラ作家は好きなのですがね、「運命の力」はちょっと重くて書くのがしんどいので、置いといて、と。
「ブロークン・フラワーズ」
ジム・ジャームッシュ監督
2005年の制作。
またジャームッシュです、同じ監督のものを続けて見る癖がありまして。
それに、ご近所トラブルのいや〜な映画を見て、その後「運命の力」の執念深すぎる兄妹を見て、胃のあたりが重くなったので、少し軽めのものを見たかったのです。
- ビル・マーレイ:ドン・ジョンストン コンピュータ・ビジネスで成功するも、同居していたガールフレンドに愛想尽かしをされるような冴えない中年男。
- ジェフリー・ライト:ウィンストン ドンの友人。
- ヒーサー・アリシア=シムズ:モナ ウィンストンの妻。
- ジュリー・デルピー:シェリー ドンの恋人。
- シャロン・ストーン:ローラ(昔の彼女 -1)クローゼット・オーガナイザー。レーシング・ドライバーであった夫は事故死し、未亡人となっている。
- アレクシス・ジーナ:ロリータ ローラの娘。
- フランセス・コンロイ:ドーラ(昔の彼女 -2)1960年代にはフラワーチャイルドであった。現在は夫ロンと不動産業を営む。
- クリストファー・マクドナルド:ロン ドーラの夫。
- ジェシカ・ラング:カルメン(昔の彼女 -3)アニマル・コミュニケーターとして成功。
- クロエ・セヴィニー:カルメンのアシスタント。
- ティルダ・スウィントン:ペニー(昔の彼女 -4)荒地のボロ家で生活。
- マーク・ウェバー:ひとり旅の青年。
- ホーマー・マーレイ:車窓の青年。
(配役はWikipediaからコピペしました)
なかなかの俳優陣なのです。
作品は、ジム・ジャームッシュですから、やっぱり風変わり、奇妙なお話です。
主人公ドンを演じるビル・マーレイのいつも困ったような退屈しているような顔がピッタリ。
コンピュータービジネスで成功し、不自由ない暮らしをしているようだけど、現在は大した仕事もせず、うだうだと生きている中年男ドン、写真右は、現在の彼女に愛想尽かしされて出ていかれるところです。
彼女のピンクの服が一つのポイント。
ジャームッシュの映画の登場人物は、大きな演技をしない、特にこのドンは、彼女に出て行かれても、大騒ぎするでもなく、TVで昔の映画をボ〜ッと見ています。
そこへ、差出人の住所も名前もないピンクの封筒の手紙が来る。
「20年前あなたと付き合っていて、息子が生まれた。19歳になる息子が家出した、あなたのところへ行くかもしれない」
というような内容。
この手紙を持ってどこへ行くかと思えば、隣の住人ウィンストンに相談。
このウィンストンがなぜか知らないけど、「お前は20年前彼女がいっぱいいたんだろう、その彼女を一人づつ訪ねて行って、息子がいるか最近家出したか聞くといい」とお節介なことを言い、さらには、彼の昔彼女の居所など逐一調べて、「元カノ訪問ツアー」アジェンダを作成します。
ウィンストン何者?
変な隣人の映画を見た後なので警戒しましたが、ただのすごく変わった世話焼きらしい。
元カノを訪問するにあたっての服装も指示、さらにはピンクの花束を持参せよ、とのウィンストンのアイデア。
ウィンストンの注意ポイントは、ピンク、(手紙を打った)旧式のタイプライター。
ドンは嫌だ嫌だと言いながら、ウィンストンのアジェンダに従って元カノ歴訪。
最初の元カノがシャロン・ストーンという…
彼女は仕事で留守で、可愛いティーンエイジャーの娘が家に案内してくれるのだけど、さすがジャームッシュ、その娘(ロリータという名前!)家の中では全裸で生活しているらしい。
ドンは目玉が飛び出しそうになりますが、そこは分別ある中年男ですから、母親が帰るまで何もなく、未亡人となった、まだ若くてきれいなシャロン・ストーンと、その夜いいことをして、旧交を温めるのでした。
でも、彼女には娘だけで息子はいない、ただ庭に古いタイプライターが捨ててあった…
ドンが少しいい思いをしたのは1軒目だけで、だんだん嫌な思いをすることになります。
でも、迎える方だって、アポなしにいきなり20年前の彼氏が現れ、不躾に話をしたいとか言われたら普通嫌ですよね。
2軒目は昔はフラワーチャイルドだったかもしれないけど、今は夫と不動産屋で結構儲けているドーラ。フラワーチャイルドどころか、いかにも商売上手っぽい様子。ご主人が鷹揚に「そんならうちで夕食でも」と誘い、不味そうなディナーを、ギクシャクした雰囲気の中食べることに。
その夫婦に「子どもはいるか」といきなり聞くドン、もうちょっとマシな聞き方があろうものを…ますますぎこちない空気になる。子どもはいない。
3軒目はカルメン、ジェシカ・ラング演じる売れっ子アニマル・コミュニケーター。
そこの犬がウィンストンという隣人と同じ名前。
なんだか少し怪しげな商売ですが、患畜が引きも切らず来ていて、大忙し。
その合間を縫ってドンはカルメンと話をしますが、ここも外れ。
手土産の花束もアシスタントに「お忘れですよ」と返されてしまう。
しかし、どの元カノ周辺にもピンクのもの(ドーラのピンクの名刺とか)だったり、タイプライターだったり、思わせぶりな小道具が配されています。
4軒目が最後ですが、この元カノが一番生活は苦しそう。
荒地の一軒家に、柄の悪そうな夫と夫の兄弟か仲間かといます。
ドンがよせばいいのに、彼女にいきなり「子どもはいるか?」と聞くと、その質問は彼女にはとても痛いことだったらしく、泣き顔で家に引っ込んでしまう。
怒った夫にガツンと顔面を殴られて…
鼻を腫らしてこの旅は終わります。
家に帰る途中、ヒッチハイク中の19歳ほどの青年を見つけて俺の息子じゃないか?とか聞いてキミ悪がって逃げられ、呆然としているドン…
最後に息子が見つかり、悪かった、お父さんだよ、と抱き合う、なんてことは絶対にないと思っていましたが、やはり思った通り。
謎は謎のまま、でももしかすると最初に出て行った現在の彼女が戻ってくるかもしれない。
ヒッチハイクの青年に「過去は変えられない、将来はわからない、いまが大事だ」と格言めいたことを言ったドンですが、本当にそうなるかもしれない、そこはかとなく予感を漂わせて終わります。
すっきりしない人もいるかもしれませんが、これがジャームッシュですから。
これでいいのです。