ディエゴ・マラドーナ追悼

11月25日、ディエゴ・マラドーナが亡くなったとの報道がありました。

60歳になったばかり、亡くなるには早い年齢でしょうけれど、度重なる薬物摂取と引退後のひどい肥満ぶりを見て、彼はそんなに長く生きられないのではないかと、わたしは思っていました。

それであまり驚かなかったのだけど、寂しい気持ちには変わりありません。

 

わたしのようなアルゼンチンからしたら地球の裏側の、一介のサッカー好きオバでも、彼に関する思い出はいくつもあります。

天才には違いないのですが、わたしの印象では彼の全盛期はそれほど長くはないように思います。今もバルサで中心選手であるメッシ(多少翳りが見えているかもしれないけど)とはそこが違うのではないかしら。

しかしそのプレーの鮮烈さは忘れがたく、彼のプレーに憧れてサッカー選手を目指した少年少女が世界にどれほどいることでしょうか。

 

わたしが初めて彼のプレーを見たのは…すごくオババだとわかっちゃうけどほんとだからしょーがない、1979年、日本で開催されたワールドユース大会です。

見た、といってもスタジアムではなくTVで、ですが、今にして思えば幸運にもTVで試合が放送されたのですね。

その時のアルゼンチン代表監督は、あらっぽかったアルゼンチンのサッカーに「インテリジェンス」を植え付けたメノッティでした。

マラドーナはもちろんアルディレスが得点王になったように、後のフル代表の中心になる選手が揃った、素晴らしいチームでした。

そのころのわたしは、サッカーをあまり知らなかったのだけど、マラドーナの技巧に魅了されたのは覚えています。

本当はアルディレスをお気に入りだったといえば通っぽいのですが、なんとなく可愛い風貌のディエゴが気に入っちゃった。

若い頃のマラドーナは可愛かったのよ、ただ今にして思えば当時は規制が緩かった筋肉増強剤とかをもう使い始めていたのかもしれず、小柄だけどかなりがっしりしていました。

今ならすぐにヨーロッパのクラブへ行きそうなものですが、ボカ・ジュニアーズに所属していました。

 

それからボカやバルサなどでのプレーは見る機会もなく、82年のW杯21歳の彼を見ることになります。

活躍もするけど乱暴な行為もあり、少しガッカリした記憶があります。

 

86年のW杯こそ、ディエゴ・マラドーナの名前を、サッカーの歴史に刻み込んだ大会になりました。

 

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準々決勝のイングランドNHK山本アナウンサーの絶叫「マラドーナマラドーナマラドーナ、マラドーーナーーー!」が飛び出した5人抜きゴールと、「神の手」ゴール。

どちらもマラドーナそのものだと思います。

「神の手」の方はVARがあれば取り消しね。

5人抜きは速くて上手くて、本当に彼でなければできない圧倒的なプレーでした。

イングランドは彼の速さについていけなかったのだけど、これがたとえばSルヒオ・Rモスだったりしたら、危険なタックルでもかまして防いだのではないかと思います。

潔さというかアッサリ感というか、それもイングランドらしい。

と、イングランド好きのわたしは思う。

この頃がマラドーナの最盛期でナポリでも大活躍していました…といってもセリエAを見る機会はありませんでした。

 

90年大会ではカニーヒアとのコンビネーションが面白かったのを覚えていますが、また物議を醸すような行為によって、ネガティブな印象が残ってしまいました。

厳しい時マーク、ときにはひどいファウルも受けて、気の毒な面もあります。

その後、カニーヒアもわたしの記憶が正しければ、薬物で処分されたのじゃなかったか?

 

94年はもう難しいのではないだろうかと思っていたのに復活したマラドーナが見られて嬉しかったのに、ドーピング検査で薬物使用が発覚して追放されるという顛末に。

 

華々しい活躍と、たびたびの薬物使用の発覚、彼の人格か、薬物のせいかわからないけどおかしな言動。

引退後はもう歯止めが効かなくなったか、どんどん肥満して、スターウォーズ1に出てくるカエルみたいな姿になってしまった…

 

マラドーナを思うとき、稀有の才能による忘れがたいプレーと、ピッチ外(ピッチ内でもあるのだけど)の極端な自堕落さと常識はずれの言動の両方の記憶で、なんとも複雑な感情が湧いてきます。

両方を合わせて、やっぱり稀有の存在なのでしょう。

 

ところで、マラドーナに関する映画などを調べていたら、

eiga.com

 

 

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他にもマラドーナのドキュメントがあるようですが、これはクストリッツァが監督したものでした。

これはしたり。

クストリッツァは割と好きな監督です。

アンダーグラウンド」や「白猫・黒猫」などは面白かった。

このドキュメンタリーでは題材が強烈すぎるので、どうなっているか…見逃したので、というか、封切り当時はあまり見たいと思わなかった…今になって見たいと思っています。

 

 

代わりに、といっちゃナンですが、パウロ・ソレンティー監督の邦題「グランドフィナーレ」原題YOUTHに、マラドーナ(本人ではない、よく似た俳優)が登場します。

 

eiga.com

 

これは映画館で見た。

なかなか面白い作品でした。

スイスの高級ホテルで繰り広げられる「グランドホテル」式の作品です。

ここに逗留しているのがほとんどトシヨリばかり、まるで超高級介護付き高齢者施設のよう。

その逗留者の一人がどう見てもマラドーナ(名乗るシーンはない)で、プールで心臓発作を起こして騒ぎになったりします。

現実に起こるとは…

 

そのマラドーナ(と思しき人物)と、細かいところは忘れたけどホテルの若いスタッフだったか、逗留者だったかとの会話、若いほうが左利きだというような話をすると、マラドーナ(と思しき人物)が、俺も左利きだよ、という。

すると、彼が

はい、知っています。

あなたが左利きなのは、世界中の人が知っています。

 

今になって、これは名台詞ではないかと思い出しました。

 

 

さて、マラドーナは神様に「神の手」について、なんと言っているのでしょうね…

叱られていないといいですが。