「顔のない軍隊」エベリオ・ロセーロ

コロンビア、というと何を思い出すか。
コーヒー。と言うのが、日本人の答えでは一番多そう。
あとは?
サッカー選手ばかりだわ。
エスコバルアメリカW杯、背水の陣のアメリカ戦でオウンゴールを献上、グループリーグ敗退。帰国後、「オウンゴールをありがとう」と言いながら放たれた銃弾によって殺された選手。
忘れられない恐ろしい事件でした。
これはコロンビア人が熱狂的なサッカー好きということもあるでしょうが、それよりおそらくは賭博と関係しているだろうなどと言われたものです。
 
サッカー関係ばかりじゃなんですな。
わたしの好きな小説家、トップ3に入ります。
百年の孤独」は、本人の言葉によれば「ソーセージ並みに売れた」そうですが、そのくらいは売れてもおかしくない面白さ。
以前エントリーにした「コレラの時代の愛」もとても読み応えがあり、「愛その他の悪霊について」なども印象深い物語です。
 
で、エベリオ・ロセーロという作家はマルケスの再来と言われているそうです。
今回読んだのは彼の「顔のない軍隊」という2007年の作品。
 
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読み始めてちょっと戸惑ったのは、この小説の舞台がいつの時代なのかよくわからない・・・コロンビアの歴史をざっと見ても、どうも1800年代のスペインからの独立戦争(シモン・ボリーバルの名前くらいは聞いたことがある)以来、ず~っと戦争、内戦の連続だったようです。
今も続く武力闘争に巻き込まれた僻村が舞台になっています。
 
というと、ひどく深刻な暗い内容かと思われます・・・実際そうなのだけど、戦争と隣り合わせの日常とはこんなものか?と思うようなユーモアがたっぷり。
まずは、主人公のおじじ様が、とんでもなくエ○じいさんで、冒頭から隣のグラマラスな美人の若奥さん(なぜかいつも全裸で庭をウロウロしてる!)を覗き見。これでも元教師。
エッチなことばかり考えているおじじですが、老妻を深く愛していることがわかります。
しかし呑気そうな村にも徐々に内戦の危険が迫る・・・その徐々に、の感じがとてもコワイ。
最後には耐え難く残酷な光景が展開される・・・
後味で言えば、とてもよろしくない。
 
それでも小説としてはたいそう興味深く面白い。
本の帯に「コロンビアの新しい小説の生命力を感じさせるすばらしい実例」とありますが、本当に生命力という言葉がふさわしい作品です。
母国の内戦で失われていく命を、作家が痛みを持って惜しんでいるのがわかります。
歌手のシャキーラもコロンビア人だったのですね、彼女も内戦孤児救済のためのNGOを建てたそうです。
わたしなどはコロンビアの国情に無知でしたが、この作品によって多少はサッカー以外の関心を持っただけでも、意味があるでしょう。